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君たちはどう生きるかのsushiのレビュー・感想・評価

君たちはどう生きるか(2023年製作の映画)
3.7
塔に入るまでの不気味な感じはすごく良い。「千と千尋の神隠し」の序盤を思い出すが、それとはまた違った薄気味悪さ。初見時(公開当日)は前情報が一切無かったせいもあって、マジですごいものが始まったんだと感動してたが(特にサイレン鳴ってから病院に向かう真人の主観ショット)、塔に入ってからは退屈になる。

終盤における、真人の塔の継承拒否からの崩壊までの流れは、漫画版ナウシカや「ラピュタ」を想起させるが、塔(石)のメタファーが何であれ(スタジオジブリ、原発、天皇制など)、宮崎駿がそれを壊す以外の方法を思いついていないところに、老いぼれてもなお残る幼さと頑固さ(と一抹の左翼味)を感じた。
例えば富野由悠季の「Gのレコンギスタ」では明らかに原発のメタファーである建造物が物語終盤で登場し、主人公たちは世界の秘密であるその存在を知ることになるが、決して破壊したりはしない(さらに天皇のメタファーとしてスコード教の法王が登場するが、ラストまで殺されることはない)。
原発に賛成か反対かという話ではなく、原発に代表される科学技術(ひいては文化も含めて人類の叡智といったもの)をどのように運用していくべきなのか、それを若者たちに考えていってもらいたいという富野由悠季なりのテーマであるのだろうが、良くも悪くも宮崎駿にはそんな大人びた発想はないらしい。全部終わらせてやる(しかも自分の手で)といった、老境の諦めにも似た野望が今作にはある。というよりも、ここ数年の彼の作品を鑑みれば、宮崎駿は映画の中では幼児退行しやすくなっていて、それにより(良い意味で)思考がより稚拙かつ短絡的になっているのかもと考えた方がいいかもしれない。

かつて左翼として社会に反抗していた者が、いつのまにかフィクションの世界に浸かって子供じみた妄想を繰り広げるが、一方で心の奥底ではかつての夢を抱き続けているというように見えた。あんなに過激だったのに、米津玄師の曲を使ったり、ジブリが日テレの子会社となったりと、明らかに今までの宮崎駿とは比べものにならないくらいヌルくなっている。


というわけで、良くも悪くも宮崎駿が作家として晩年様式の段階に入っているという点でとても面白い作品だと思うので、彼には死ぬまで作品を作り続けてほしい。
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