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君たちはどう生きるかのymdのレビュー・感想・評価

君たちはどう生きるか(2023年製作の映画)
3.8
観たのはもう1ヶ月くらい前だけど、なんだかんだレビューが書けないまま漸く今に至ってしまった。
私生活が落ち着かず余裕が無かったというのもあるけれど、今作のとりとめのなさ、混沌とした読後感がすぐに感想を書くことを拒否していたようにも思う。

少し記憶が曖昧になりつつある一方で、表層的な難解さが融解して核のようなものが心の中にまるで残滓のように留まっている。

宮崎駿の集大成というような感想を見聞きしたりするけれど、それは正しいと思う一方でそういうことでもないような気もする。
確かに本作にはかつての宮崎映画諸作からのリファレンスが多数用いられているし、写実的な日本の原風景と空想的なファンタジーが混濁した舞台設計は宮崎駿の真骨頂とも言えるだろう。

宮崎駿の作品は己の嗜好性を貫いた偏執的な作品が多く、何よりも自身の作家性に忠実な映画作りをする類稀な映画人であることは間違いない。
これまでの映画ではそうした作家性だけでなく、大衆にも受け入れられる娯楽性も同時に有していた。だからこそジブリは日本のみならず世界でも有数のアニメーションスタジオとしてのポジションを確立していたのだろう。

だけど、本作において宮崎駿の目線の先には観客はいなかった。その目線の先にあるのはあくまで自分自身であり、極めてパーソナルで内省的な作品になっているのがこれまでの宮崎映画との決定的な違いである。

最低限の冒険活劇としてのキャッチーさは備えてはいるが、圧倒的に説明不足で観客の理解を超越したプロットは、これまでのジブリ映画に慣れ親しんできた人を突き放す冷酷さを感じるし、それを意に介さずに踏み込んだ表現に踏み込んだ姿勢は驚嘆に値する。

そういう意味でぼくはこの映画を宮崎映画の集大成と呼ぶことに一種の抵抗感があるし、手放しで絶賛することもできない。
でも、本作は宮崎駿にとって自己表現の最高到達点であると思うし、だからこそ本作を持って監督業からの引退を示唆する発言までしているのだろう。

まあこの人は映画作る度に同じようなこと言ってるけれど、この映画を観るとその発言も迫真性を帯びているように思う。

難解な描写に混乱しながらも、途中から考えることを放棄したら、意外とシンプルなストーリーに集中して楽しむことができた。

100%の楽しみ方ではないだろうけど、1人の未成熟な少年の成長を描くジュブナイルモノとしての評価でこの点数を付けた。もちろん作画のクオリティや空間演出の妙技も素晴らしい。

何度も観たくなる類の映画ではないかもしれないけど、何度も観ることでその本質に少しずつ近づけるのだろうか。

今世紀最大の問題作として語られることだろう。
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