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君たちはどう生きるかのYOのネタバレレビュー・内容・結末

君たちはどう生きるか(2023年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

母の死によって心を閉ざしてしまった少年-真人。疎開先の田舎の生活にも慣れず、父と逆縁婚した夏子の存在も受け入れることができずにいる。真人は家の周りで誘惑してくるアオサギに次第に敵対心を持つようになり、アオサギを倒すことに夢中になっていく。

そんなある日、夏子が森の中に消えていき、アオサギの仕業に違いないと思った真人は森の中へと進み、異世界へ迷い込む。異世界は人間を襲う鳥類が多く生息する、死が隣り合わせの地獄の世界。真人にも何度も危機が訪れる。姿が変わった老婆とアオサギと亡き母ヒミが、真人を子を身ごもった夏子のもとへと導いてくれる。真人は夏子にやっとたどり着くが、聖域に足を踏み入れてしまったことにより、異世界の秩序を乱してしまう。異世界は真人の先祖である大叔父によってなんとか秩序を保たれていた。大叔父は真人に異世界の支配人を引き継いで欲しいと願っていたが、真人は現実に戻ることを選択し、その選択がきっかけに異世界は崩れていく。

滅びる異世界から何とか戻ったアオサギと夏子と真人。真人は異世界での経験を通じて一回り成長し、夏子を新しい母親として受け入れるようになっていた。真人の周りには、家族、今まで助けてくれた人たち、アオサギ、そして異世界から逃げてきた鳥たちが囲んでいた。

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監督が描きたかったテーマは少なくとも二つあると考える。

1.母の死や戦争によってもたらされた辛い現実を受け入れていく少年の成長の物語。周りに助けられながらも、コンプレックスや親への依存からの脱却。少年から青年へと成長していく人間の姿。

2.先祖が守ってきた不安定な秩序と戦争という地獄が崩れた後の世界。現実世界は、見守ってくれる味方(老婆)、善か悪か分からない友人(アオサギ)、そして別の正義で動く悪人(異世界から逃げてきた鳥たち)など、様々な存在が入り乱れる。これまで必死の思いで異世界を守ってきた大叔父は消えていき、残された青年はどういう道を歩むのかを問いかけている。

最初に印象に残るのは、監督がよく題材とする1のテーマ。監督にとって母親がいかに大きな存在だったか、戦争がもたらした強烈な幼少期の経験、そして現実を受け入れ、コンプレックスを脱却していく感情の変化を強く感じる。
しかししばらく経って印象に残っているのは2のテーマ。監督自身が大叔父の存在と重なり、自身を含め過去の人たちが積み上げてきたものが崩れた現代社会に不安に感じながらも、未来を若者へ託したというメッセージを感じる。今まで何度も引退を宣言してきた監督も、本当に引退が近いのだろうと感じて、切ない気持ちになった。

作画は相変わらず異常なまでのこだわりを感じる。特に好きだったのは、船のシーン。風をとらえたときのはちきれそうな帆、今にも転覆しそうな不安定な船を巧みなロープワークでコントロールする描写に圧倒された。日本の名だたる制作会社が参加し、これぞアニメーションの最高傑作だというのを見せつけられた。

ストーリーはほとんど理解しきれていないが、監督も視聴者に全て理解して貰おうともしていないと感じる。賛否両論あると思うが、監督が自身の人生を振り返る作品であり、個人的にはそれで良いと思った。
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