Bahun

君たちはどう生きるかのBahunのネタバレレビュー・内容・結末

君たちはどう生きるか(2023年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

[スケベジジイ!長生きしろよ!という気持ちになる]

 この映画には2種類の話の筋があると考えています。
 まず一つは、真人が自分を肯定できるようになるまで、もしくは死んだ母を追わなくなるまでの旅の物語。
 真人が迷い込む場所というのは、生命の根源、ないし子宮のメタファーであり、この中で真人は母を助けられなかった後悔を義母に手を差し伸べることで晴らし、母からもっと愛されたかったという願望を、母が自分を産みたいと思う最初の瞬間に立ち会うことで叶える。喪であり再出発。死んだ者の肉から新しい生命を再構築する子宮の中だからこその物語。

 一方でメタ的な読みをすればスタジオジブリの物語としてとらえることもできそうである。物語の舞台は大叔父さんが構築した世界であり、足を踏み入れればいつでも会いたい人(お母さん)に会える。こう聞くと映画の中の世界そのもの。実際、ジブリ映画で見た景色がたくさん出てくるから、この場所はジブリ映画の世界そのものなんだろう。
 キャラクターにはそれぞれ役割があると思われる。ヒミ、キリコはジブリの映画の人気のキャラクターを表わしている。作品の中ではいつでも若く、老いない。ジブリに携わろうとする若者を生み出す。ヒミはのちに真人を産むし、キリコはこれから胎児になるものを世話している。「小さいころにだっこしたんですよ」というばあやたちの発言から、ヒミの産婆を務めた可能性もある。産むことを手助けする産婆は、広義において母だといえると思う。真人はジブリに憧れ、才能もあるがジブリを継がないもの。青サギはジブリのまがい物を作るもので、彼が作ったものは表面上はとてもヒミに似ているが、近づくとドロドロに溶けてしまう。大叔父は御大。義母は根拠はないが、ここ最近のジブリ映画のキャラクターなのではないかと考えている。ここ最近のジブリ映画を見て映画製作者を志す者は、おそらくジブリの存続しているうちに芽は出ず、ジブリを継ぐことはない。義母はジブリの外に新しい才能を産むのである。
というわけで、宮崎駿の後継者づくりに関する私小説的な物語がもう一つの筋なのではないかと考えている。

 考察を述べ終えたところで感想を述べさせていただくと、これはものすごく宮崎駿監督の我が出た作品だと思う。
 宮崎駿監督が手掛ける最後の作品になるかもしれないという点から、話が私小説的になるのはわかる。しかし、そこにもう一つ乗っかているストーリーが何かというと「ヒロイン(複数!)(全員お母さん!)を連れて子宮に冒険に行く!」というもの。いや、脱帽です。勘弁してください。なんですかこれは。この二つの話を同時にしようとする意図がよくわからない。なんのつもりかわからず本当に怖い。僕は考えあぐねた末、単に好きなんだろうな、という結論に落ち着いた。80過ぎても「好きな女性のタイプは?」と聞かれて、「お母さん!」と満面の笑みで答えられる宮崎先生には頭が下がります。
 そんな監督の自我と「癖」のこもった物語を、アニメであることを最大限生かすいつものジブリのタッチで描くため、濃すぎる。見終わった後は感動とか衝撃とか精神的なものを超えて、身体的に疲れていた気がします。あまりの濃さに気づいたら中毒のように二回目を観に行っていました。こういう映画体験をさせてくれる映画ってなかなかないと思う。
 映画を一人で観に行くようになるころには『風立ちぬ』の上映も終わっていた世代の人間からすると、大画面でジブリを観れるだけで感無量だし、その上このような濃いものを見せてもらえるなら是非ともまた作ってほしいところです。

 というわけで、宮崎駿監督にはもっと我を出した作品を作ってほしいので高評価。みんな見てください。同い年かなんかのスコセッシなんかもう次回作作り始めてますからね。たのんます。もちろん最終的には宮崎監督の自由ですけど。

手放しで褒められる作品ではないので本来だったら4.3、宮崎駿監督応援ポイント+0.2という感じ。
Bahun

Bahun