メガネン

マダム・ウェブのメガネンのレビュー・感想・評価

マダム・ウェブ(2024年製作の映画)
4.2
ヴェノム、ヴェナム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ、モービウスに続く、SSUの第四作。
Sony's Spiderman Universeの名の通り、非常にスパイダーマンにゆかりのあるキャラクターで構成されたストーリーであるものの、今回は前作のモービウスや、前々作のヴェノム:LTBCのように、スパイダーマンの世界線との明確な交わりは描かれなかった。具体的には、トム・ホランドの演じたピーター・パーカーのいるアース616に言及するシーンはなかった。
よって、この映画は終始、マダム・ウェブというMARVELからの新たなヒーローの、その誕生と覚醒を描くことに集中している。
これは、MCUのうたうマルチバースサーガと、それに連なる、まるで連続性が失われてしまったかのように拡がり続けるだけのMARVEL作品群という、いわゆるマルチバース疲れを癒してくれる。
その意味でも視聴していて心地良かった。

またシンプルに物語としても面白い。
未来予知の能力は、比較的ありふれた題材だが、それを感じさせないフレッシュな描写が、物語へと引き込んでくる。
キャシーの救命救急士というバックボーンは、子どもを護ろうとする意思の強さに説得力を持たせているし、母親への蟠りからその行為が単純な善意のみによるものではなく、葛藤を含んだ、人間臭いものであることを示す、様々なセリフは、そのキャラクターに生命感を与えていると感じた。

三人の少女たちも、互いに異なるバックボーンを持ち、黒人と白人とヒスパニックと言う三者三様でありながら、実はよく似た心性を持っていることが明らかになる。おそらく、これは今後のマダム・ウェブ作品の展開への布石になるのだと思うが、キャシーを含めこの4人は物語の最後では既にチームと言って良い。(事実、キャシーは"They're my family. All of them."と言っている。)
身を挺して命を救ってくれたキャシーの一命を、三人が協力して取り留めるシーンは、既に予見されていたものの、あるいはだからこそカタルシスを感じるシーンでもあった。

盲目で、脚の悪い、老婆というのが、コミックでのマダム・ウェブのオリジンだったと思うが、それをこのように丁寧なストーリーテリングで具現化したことは、SSUの未来に大きな期待を抱かせてくれる。

さて、それにしても、本作はスパイダーマンに一切触れないにも関わらず、極めてスパイダーマンを意識させる内容でもあった。
"With great power comes with great responsibility"とはスパイダーマンにおけるメインテーマであり、どのスパイダーマン作品においても語られる普遍的なワード「大いなる力には大いなる責任が伴う」である。
しかし、本作はこのスパイダーマンに通底していたキーワードを、大胆にアレンジして組み込んでくる。
いわく、"When you take responsibility, you will gain powerful abilities"
「責任をもって(それを)扱うならば、君はより強大な力を得るだろう」
果たして、このアドバイスを受けて、マダム・ウェブはその真の力に目覚める。
これこそ、彼女の使う"ウェブ"の正体であり、その一線を画す能力は、映画館で味わっていただきたい。

追記:昨年末の報道によれば、トム・ホランドによるスパイダーマンは第4作の制作が決定しているようだ。しかしながら、スパイダーマン:NWHを経てピーター・パーカーはあらゆるユニバースから隔絶されているように見える。スパイダーマンの存在は、ヴェノムやモービウスでの言及から、少なくともSSUにおいて認知されていることは想像できる。しかしマルチバースサーガでもちきりのMCUに再びピーターが登場するのは難しそうに見える。やはり、スパイダーマンの第4作はSSUにおいてのみの展開になるのだろうか。
もう一つ気になるのは、アニメーション作品、スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバースにおける、実写作品ヴェノムへの言及だ。果たしてアニメの世界もマルチバースの中に入ってくるのだろうか。
ただ、いずれにせよ、マダム・ウェブが最後に語った台詞は印象深い。
「未来は面白い。まだ起こっていないから。」
さて、解釈の分かれそうな締めくくりである。