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死体の人のDのレビュー・感想・評価

死体の人(2022年製作の映画)
3.5
2023年 24本目

映像作品において、その画角に収まるすべての被写体のリアリティを追求することは理想といえる。「神は細部に宿る」とは本当にその通りで、単なるエキストラでもソワソワしてるやつが画面に映り込んでいたら気になってしまうし、誰かの部屋のシーンをひとつ撮るにしても、どんなポスターが貼ってあって、どんなものが置かれていて、といった、どのような部屋かでそこに住む人がどんな人なのか、どのような生活を送っているのかを想像する。主要登場人物の重要な演技だけしっかり撮っていればいいだけでは全くない。細部をないがしろにすると、そのほころびはどんどん大きくなっていき、駄作になる。

しかし、リアリティを追求することでその作品にブレが生じてしまうことも往々にしてある。ここが難しいところだ。この映画の主人公はタイトル通り「死体の人」をよく演じることが多い売れない役者なのだが、死体をよく演じているだけに死体について詳しくなったのだろう、彼は死体のリアリティを追求する。ただ、仮にそれが本当に死体のリアルだったとしても、それを観た観客が「変な死に方だなあ」と思ってしまえば、変な死に方を題材にした作品でもない限り、ブレてしまう。

リアルな死体を演じようとする主人公は、監督とたびたび衝突し、「ふつうに死んでくれてればいいから!言われたとおりにやってさえくれればいいから!」と怒られるが、決して譲らない。そこで監督は諦めて、アングルやカット割りを変更して、リアルな(変な)死に方を意図的に排除する。結果的にこのやりとりはリアリティをないがしろにすることなく、うまく撮ることで作品のクオリティを維持することにつながっているのではないだろうか。映像制作の現場でそれぞれがどう立ち回るべきか考えられる良い話になっていたと思う。

主人公と風俗嬢や家族との会話もユーモアたっぷりでとても面白かった。欲をいえば、唐田えりかをヒロインに選んだことは称賛に値するが、風俗嬢を描くのであればもっと真正面から「性」について描いてほしかったのと、彼氏役が典型的なクズで深みに欠けていたところをなんとかしてほしかった。あと、自分の耳が悪すぎるだけなのかもしれないが、母親が最後に何を言っていたのか、かなり重要な部分なのに聞き取れなかった。
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