るき

MUSICAL「ルードヴィヒ Beethoven The Piano」のるきのネタバレレビュー・内容・結末

4.0

このレビューはネタバレを含みます

「失ったのは耳だけじゃない」

そう耳だけじゃない。人生において全てを失った。でも救いなのは、ルードヴィヒが失ったことへの後悔と気づきが意識としてあることである。大切なものを失ってからその大切さに気づくことは確かに愚かな行為ではあるが、それでもルードヴィヒは毎回気づき、後悔したのである。耳を失い、未来への希望ウォルターを失ったことの後悔から学びその結果カールをも失うことになったのはなんと愚かなことか。その学びとは、音楽を継ぐための未来の希望(才能のある子供)を死なせてしまったことである。学んだこと自体は素晴らしいことなのにその学びは間違いで、「神が与えた息子である」とカールの運命を決めつけ、音楽という檻に無理やり閉じ込めてしまったからである。それにたまたま甥だったというだけで巻き込まれたカールはなんとも切なく運命とは皮肉なものである。
そして、歴史上において天才と評されたルードヴィヒだが、確かに音楽の才能としては天才かもしれない。しかし、聴力を失うという転機が起こらなければ、ルードヴィヒが願ったように現代にも残される曲の数々は生まれなかったのかもしれない。その転機を引き寄せたことが天才なのかもしれないし、転機をチャンスに変え自分のものにしたことが天才なのかもしれない。才能とは何か。才能とは自分で掴むもの。才能とは。
彼を天才という言葉ひとつで一括りにするにはあまりにも勿体なく、物足りない。分厚く、脆く、弱く、繊細な誰よりも人間らしい人物である。だからこそ何百年経った今でも色褪せることなくベートーヴェンの音楽は継承されるのだろう。
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