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フィービー・ケイツの レース/レース 華麗なる愛の罠のakrutmのレビュー・感想・評価

5.0
幼少の頃に養親を戦争で亡くし、ポルノ女優や娼婦をしながら生き抜いてスター女優にまで登り詰めた女性リリィが、自分の本当の母親を知るまでを描いたTVドラマ。イギリスやフランスなどの海外の俳優を起用し、フランス、イギリス、スペインなど世界各地でロケ撮影を行った大作で、アメリカの三大テレビネットワークのひとつであるABCによって製作され、1984年2月26-27日の2日間連続で放映された。原作はシャーリー・コーランのデビュー作でベストセラーとなった同名小説であるが、本作では母親の候補が4人から3人に変更されている。ニック・ビカットによるテーマ曲も印象的。

80年代後半だったと思うが、日本でも(多分、日テレで)深夜に放映されている。自分はそのときにちょうど見ていて、めちゃくちゃ面白かったという記憶がある。ソープオペラ的な内容なので、そういう作品が嫌いな人はふーんという程度かもしれないが、その後も何度か見る機会があり、個人的にはほぼストーリーを詳細に覚えるほどハマった大好きな作品である。

ストーリーの核となるのが、リリィの母親が誰かという謎解き。全寮制女子校の仲良し3人組であるジュディ、ペイガン、マキシンは活動的な女子高生で、それぞれが男性と恋に落ちて初体験を迎える。その結果、3人のうちの一人が妊娠するが、ドラマの最後まで誰かは明かされない。生まれた娘はハンガリーからの移民夫婦に里子として預けられ、3人のうちで最初に自立した人が引き取りに行く約束をする。それまでは、資産家であるマキシンの叔母が金銭の面倒を見てくれていて、毎月、養親に送金している。ドラマは、スター女優になったリリィがその叔母に会って、自分の出生の秘密を問いただす現代(1980年?)のシーンから始まる。その後、リリィはスター女優の地位を利用して母親候補の3人に別々に近づき、自分の気持ちひとつで3人の人生を左右するような弱みを握るようになる。そんな現在の4人の関係と、リリィや3人の現在に至るまでの過去を、自由に行き来しながら描いていく。

そして、(作中では何度か出てくるのだが)時系列的なラストシーンでは、自身が宿泊している超豪華なスィートルームに3人を呼び出したリリィが投げつける質問が "Which one of you bitches is my mother?"。アメリカのTVドラマ史に残る名セリフと言われている。ちなみに、誰が母親かを暗示するような伏線は作中で全く張られていない(と思う)。唯一のヒントとして、ある夜に産婦人科を高校生のときの母親が一人で訪れる(フードをすっぽり被ってコートを着た後ろ姿しか映らないので誰かはわからない)シーン。産婦人科医が「3人の中で最も意外な人だ」と個人的な感想を漏らす。

リリィを演じているのは、『初体験/リッジモント・ハイ』や『プライベートスクール』などがきっかけで日本で人気を博していたフィービー・ケイツ。彼女のそれまでのイメージとは正反対の、汚れ役の悪女を見事に演じている。ヌードモデルとして写真を撮られているシーンでの可愛らしさや、終始みせる小悪魔的な表情にクラクラする。おそらく、彼女のキャリアの中で最も印象的な役柄だろう。

そして、母親候補の3人を演じている女優もTVドラマとしてはなかなか豪華である。マキシンを演じているアリエル・ドンパールはエリック・ロメール監督の作品で出演するなど、フランスを代表する女優。本作を見てファンになった。ペイガンを演じているのは、『天国の日々』でリチャード・ギアと共演した英女優のブルック・アダムス。ジュディ役のベス・アームストロング(Filmarksの出演者情報は間違い)は主にTVドラマで活躍する米女優。個人的に印象に残るのは、『アンジェラ 15歳の日々』でクレア・デインズ演じる主人公アンジェラの母親役。その他にも、マキシンの叔母をジェシカおばさんで世界的に有名なアンジェラ・ランズベリー、ペイガンと恋に落ちるアラブの王子をアンソニー・ヒギンズが演じている。
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