Jun潤

プチ・ニコラ パリがくれた幸せのJun潤のレビュー・感想・評価

4.0
2023.06.18

予告を見て気になった作品。
フランスで50年以上に渡って愛され続けている国民的絵本シリーズ『プチ・ニコラ』の作者、ルネ・ゴシニとジャン=ジャック・サンペの姿を追った、ドキュメンタリー・アニメーション。

1955年、パリ。
新聞の隅に男の子のイラストを寄稿しているジャン=ジャックは、懇意にしていた作家のゴシニに声をかけ、男の子を主人公とした物語を共に作ることとなる。
男の子の名前はニコラ、作品名は『プチ・ニコラ』。
制作に行き詰まったり、新たなキャラクターやストーリーが出てきたりすると、作品からニコラが飛び出して自分の話をしてくれる。
家族、友情、恋に夢に自由なニコラからの純粋な問いに対してジャンとゴシニは、自らの人生を追想するー。

なるほどな〜こうきましたか。
長い歴史を持つ作品、キャラクターの制作秘話だけでなく、原作者たちが生きてきた中で積んできた戦争や家族、友人関係への想いをドラマティックに描くドキュメンタリーでもあり、そこに聞き手としてのニコラの存在やニコラが作品の中で過ごす日常を絵本チックに描く、ある意味異色作。
アニメーションの作りで差別化がされており、二人の作者が生きてきた人生、現在まで届く作品の制作背景は通常のアニメーションであり、ニコラの日常は同じ表現の作画でありながら、背景が途中で切れていたり、線画から彩色を経て日常の経過と一緒に作り上げられていくようなアニメーションとなっており、印象に残りました。
それまで架空のキャラクター然としてポップに描かれてきたニコラが、ラストでジャン=ジャックの目の前に等身大で現れるとエモさが大爆発ですよ。

鑑賞者視点では現在と『プチ・ニコラ』が出来上がった時代が繋っており、作中ではジャン=ジャックの視点でゴシニという仕事のパートナーであり人生の友を喪った1977年から‘50年代を追想する形になっていました。
ゴシニという、『プチ・ニコラ』に息を吹き込む上で必要不可欠な存在の喪失から、空想のキャラクターであるニコラにも死の概念が伝わるものの、ゴシニの遺志を継ぎ、ジャン=ジャックが亡くなる2022年までニコラを生かし続けてきたこと、今作の脚本を務めたゴシニの娘・アンヌの存在、今作を鑑賞した人、そして何よりニコラの誕生から今日に至るまでニコラと共に成長してきた人々が、ニコラの存在を永遠のものにしていくのだろうということが伝わってきました。

『プチ・ニコラ』のことは今作で初めて知りましたが、普通の少年のニコラが、愛くるしく、どこにでもいそうで、特徴的なキャラクターと共に過ごす日常には微笑ましさと、絵本であることを忘れるぐらいコミカルなもので新鮮な気持ちで観ることができました。
日本で言うとサザエさんやちびまる子ちゃんなどと同じような感じなのかと思いましたが、あれはあれで時代が変わってくると違和感を覚える描写もあり、いつまで続くのだろうという思いもあります。
しかし、海外の人が目にする機会があったり、初めて見る子供たちの存在もあって、自分が慣れ親しんだ作品のように『プチ・ニコラ』にも、原作者が亡くなってしまったとしても、この先ずっと元気な少年の家族愛や友情、恋に夢などを見た人に伝えていく作品として残っていくという安心感と親しみを覚えられました。
Jun潤

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