シズヲ

劇場版 SPY×FAMILY CODE: Whiteのシズヲのレビュー・感想・評価

劇場版 SPY×FAMILY CODE: White(2023年製作の映画)
3.6
TV版からして元々その雰囲気はあったけど、映画になるといよいよ『ルパン三世』や『名探偵コナン』のTVスペシャルor劇場版にクレヨンしんちゃんのテイストが放り込まれたようなアニメと化す。映画終盤のアーニャの汚れ役めいた下ネタと大立ち回り(?)は最早完全にしんちゃんの挙動であり、アーニャと対決するドミトリ&ルカもしんちゃん映画の雑魚悪役めいてユーモラスである。本作のある意味で最大の開拓要素、アーニャというキャラクターが持つコメディリリーフ性の強度を確認したことなのかもしれない。映画館で見るとアーニャの子供受けの良さがよくわかる。それとヨルさん、そういやロイドさんとのラブコメ指数が高い。

映画の中身はまさしく普段のスパイファミリーのグレードアップ版。冒頭で物語の設定を簡潔に説明してくれるので分かりやすい。元から数多の外連味をそれっぽく塗装している作品なので、ご都合主義的な展開もスルッと挟み込ませている。メレメレ絡みの展開の強引さも、悠長に引っ張られるロイドさんの浮気疑惑も、終盤の一家総出の立ち回りも、全てが“フォージャー家の家族旅行&家族団欒”の燃料として焚べられる。前述の外連味に加えて、スパイファミリーの骨子はフォージャー家の掛け合いと関係性にあるので、そのへんの持ち味が諸々の欠点やツッコミどころを振り切っている。原作も大なり小なりそういう部分があるけれど、映画版ではオリジナルストーリーが描かれたことで更に顕著になっている印象。

尤もフォージャー家の家族旅行と劇場版悪役の陰謀に直接的な接点が無かったりなど、外連味では誤魔化しきれていないゴタゴタ感も大分否めない。“物語の大筋はメレメレから始まるのに、物語の鍵を握るアイテムはチョコレート”という構図には妙な収まりの悪さがあり、粗筋と作中要素の接続があまり上手く行っていない印象。この辺りは黒幕との因縁作りの強引さにも繋がっている。家族旅行自体を黒幕絡みの任務にするなり、メレメレ自体を重要アイテムにするなり、もっとやりようがあった感じがする。敵側の切り札も殆ど布石無しで出てくるのでかなり唐突感があるけど、あの荒唐無稽な戦闘力自体はルパンTVスペシャルの悪役感があるので味わい深い。ヨルさんはやっぱ強すぎるので、映画用に対等の相手役を出すと世界観スレスレの強さになることがよくわかる。

TV版スパイファミリーの魅力を雑多かつ豪勢に詰め込み、尚且つ映画でやれるスケールを模索したような作品である。初めから映画並みのスケールでやってるアニメが増えた現代においては逆に新鮮。全体的にTV版のエッセンスの再構築&詰め合わせ的な内容なので110分の尺を活かしきれていない印象は否めないものの、スパイファミリーの味はちゃんと押さえているので既存のファンは十分楽しめる。TV版のユーモアやアクションはきっちり踏襲され、尚且つ家族3人それぞれに見せ場が適切に配分されているので安心感がある。本作の予算、恐らくフリジスの美術設定とヨルさんのハチャメチャなアクションに費やされている……気がする。
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