なべ

インフィニティ・プールのなべのレビュー・感想・評価

インフィニティ・プール(2023年製作の映画)
2.7
 インフィニティプールとは、縁が見えなくて、水面と空(あるいは背景となる海や高層ビル群など)の境目が見えないプールのこと。マリーナベイサンズなどの高級リゾートでよく見るやつね。予備知識ゼロだったけど、このタイトルだけで、境界の曖昧な話なんだと察しはつく。なんとなく、水平線かと思いきやホテルのプールだったって騙し絵的なオープニングをイメージしてたのだが、現実のインフィニティプールは出てこなかった(セリフでチラッと出てきたが)。
 何の境界話かというと…あ、ここからネタバレを含んだレビューになるので、知りたくない人は閉じてね。でも知ったからといって、この映画がおもしろくなくなるとは思えないんだけど…。
 この映画のキモは、かの地で犯罪を犯した外国人は金さえ出せば、クローンをつくって身代わりに罰を受けてもらうってところなんだけど、もうここまで聞けば、死刑になって死んだのは、果たしてクローンだったのか、それともオリジナルの自分だったのかって話でしょ、と誰もが思うよね。実際そうなんだけど、はっきりそう示してくれたらまだ救いはあるんだけど、のらりくらりとした作風のせいで、なんというか、ストーリーの焦点がぼやけてる。もっと悪意ある言い方をするなら、偉大な父親に負けないようにがんばろうとして、わざと難解に見せてるような感じ。もしかしたら焦点をはっきりさせると拙さがバレるから、あえてつかみどころをぼかしてるのかもしれない。どこかクローネンバーグを思わせる変な感じも意識的に出そうとしてる感もイタい。
 例えば女性器から男性器が飛び出してくるようなヤバイ描写なんか、一瞬ほほうと感心したけど、結局アイディアだけだからつまんないの。良かったのは小道具のお面くらい。
 基本がしっかりできてて変態の道に進むのと、基本がなってないのに変態道に進むのとでは、大きく異なる。変態の仕上がりに違いが出るのだ。ブランドンは間違いなく後者。観た人ならわかると思うが、宮崎吾郎と同じ臭いがするよね。
 響かない、刺さらない、掴まれない。ストーリーはわかるけど、訴えかけてくるものがてんでないのな。偉大な父親を持ったばかりに、劣化版として同じ道を歩まなければならない宿命ってのは残酷だと思うよ。途中でなんかかわいそうになってきたもん。
 …いいたいことはそんなとこかな。

 最後に、ヒモな主人公を惑わせる邪悪な存在として、ミアゴスが出てくるんだけど、これもちょっと言わせて。こういう役にミアゴスを使うのは便利だけど、もう観客は彼女の裸にも、エキセントリックな演技にも飽き始めてると思うんだ。ミアゴスファンとして、ミアゴスの安易な消費は許せない。もっといろんな演技を楽しませてくれ。おねがい!
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