幽斎

ファミリー・プレイの幽斎のレビュー・感想・評価

ファミリー・プレイ(2022年製作の映画)
4.0
「未体験ゾーンの映画たち2023」フロリダ州オーランド映画祭作品賞、主演男優賞。ロンドン・フライトフェスト映画祭2022参加作品。アップリンク京都で鑑賞。

ジャケ写の吸引力に吊られてか、割と客入りの良かった印象。原題「Daughter」娘、何の捻りも無いが、作為的にクラシックのアスペクト比16㎜フィルムで撮影、レトロを強調した画角は、古いテイストCinematic、カメラに詳しい方ならご存じだろうが、被写体をクッキリさせながら前景と背景を暈す被写界深度的技法。ジャンルは私の得意なサイコロジカル・スリラー、自由と真実を問い掛けるプロットを、観客がどう解釈するのか。

作品の内容はFilmarksのあらすじに隅から隅までずずいーっと書いてるので、私から申し上げる事は何もないが、アメリカではNot Ratedだが、日本ではR15に自主規制。作品は一見すると、ギリシャ神話モチーフが得意なYorgos Lanthimos監督「籠の中の乙女」彷彿とさせる。劇伴の使い方や演出はオマージュ塗れだが、プロットのディテールは些か異なる。ヴァイオレンスは控え目でも不条理に漂う不穏な気配は、ある意味ソックリ。

映画の内皮が「籠の中の乙女」なら、外皮はレビュー済「クローバーフィールド・パラドックス」の前作「10 クローバーフィールド・レーン」。静かな狂気を孕んだ世界観がアメリカでも中毒性の高い異様なテイストと評された。Corey Deshon監督は日本で全く無名だが、ソレもその筈アメリカで写真家として生計を立てたが、初の短編「TO POLICE」アメリカ以外の映画祭にも出品、続く「VOICE」高く評価され、本作のプロデューサーVivien Ngôの目に留まる。因みにシスター役で出演してる。

インディーズの本作だが、キャスト的にはファーザー役Casper Van Dienを引っ張ってコレたのは大きい。「スターシップ・トゥルーパーズ」ジョニー・リコ役、昔も今もB~C級の猫まっしぐらだが、最新作はレビュー済「マッド・ハイジ」。仕事が途切れないのは、彼の人望の賜物だろう。名前で何となく分かるが、オランダ貴族の流れを汲む家系。父親はアメリカ海軍のパイロットで子供の頃に沖縄で見た「仮面ライダー」大ファンで、藤岡 弘、に会いに来た事も有る根っからの親日家。

終末思想に取り憑かれたCasper Van Dienが、妻子と共に家に立て籠もるが、外界の空気は汚染されてると「思い込んでる」。何としても守らねばと言う使命感に駆られ、家族を維持する為に外界から若い女性を拉致して「姉」として匿う。サイコパスでもソシオパスでも無いパラノイア、統合失調症にも見えるが若い女性を監禁すると言えば、私の嫌いな「アイ・スピット・オン・ほにゃらら」思い出すが、ファーザーはセックスの為に拉致する訳では無く、精神分裂病なのでレイプはしない、良かった(笑)。

家の中で「姉」として振る舞えば、後は何をしてもOK牧場。私も色んなサイコパスの映画を観たけど自分史上最も緩い監禁、いや軟禁映画。フィクションよりも事実に近い映画と言うテロップの正体は「クリーブランド監禁事件」行方不明に為った女性3人が監禁された家から約10年振りに救出、Pam GrierとJoseph Morton出演で映画化もされた。陰惨な事件を見ると、本作のファーザーを見習えと見当違いも素直に笑えない。問題は監督の理念は伝わるけど、果たしてソレが映画として面白いか?。

私は劇場で観てスグにレビュー済「イット・カムズ・アット・ナイト」思い出した。5.0評価した極上のサイコロジカル・スリラーだが、監督の意図を咀嚼出来ない観客から、意味不明映画の烙印を押されたが、ソレは貴方の思慮が足らぬからだと全面的に作品を製作したJoel Edgertonを支持。本作もプロットが家庭不和なのでホラー目線で見る方には全く面白くない。COVIDもボヤッと終息したけど、家から出ちゃダメとか拉致した娘は何人も逃げ出すとか、一瞥するだけで何もかも中途半端、拭い切れぬ今更感に「アンタ、アホなの?」罵倒されても何の不思議も無い(笑)。

既視感のアッセンブルを探すのは容易だが、Drone musicを使う演出は、不穏な空気感を高める点で悪くない。ドローン、と言っても空飛ぶドローンでは無い。本来の意味は「ブーンと唸る」、息継ぎをしない歌い方とかヨーロッパ中世で際限なく音を伸ばす宗教的な歌い方、今で言うローマのビザンティン聖歌。日本で言うと雅楽が該当。鳴り止まないドローン・ミュージックは、不穏な家庭不和の象徴と言える。

スリラー目線で見ても随所に詰めの甘さが散見され、何度も同じルーティンを繰り返す割には見通しが甘いとか、監禁が緩すぎて逃げる隙もチラホラ伺えたり、メインで有る誘拐した少女の「特別感」も皆無で、疑似家族の意味もお座成りっぽく見えたり、舞台「ケンタッキーへようこそ」伏線が無く回収の術も無い。意味が解らず笑い飛ばせば良いのだろうが、終盤にはファーザーが偽装家族を作り上げる理由もウッスラ見えるけど、タイパもコスパも不釣り合い?とテンションだだ下がりの恐れは否めない。

嫌な残像のエンディングの様に、監督は雰囲気作りに気を捕られ、肝心のプロットに対する用意周到さが欠けてる。自ら書いた脚本の精査に、もう少し時間を割いて欲しかった。特に第7部は蛇足、6部の実は外の世界は〇〇で、ラストを締めれば綺麗に終われたし、6部と7部を入れ替えても良かった。希望と絶望が入り混じった結末は悪くないのでレビュー済「アフター・ヤン」世界線が許容出来るなら、作品のセンスは理解できる。残ったブラザーがどうするか?。1.5倍速せず作品をしっかり見てれば自ずと答えは分る。エンドロールの長さはギネス記録(笑)。

雰囲気だけはA24っぽいので「ジェネリックA24スリラー」として見れば悪くはない。
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