幽斎

タイム・オブ・ヒーローズの幽斎のレビュー・感想・評価

タイム・オブ・ヒーローズ(2022年製作の映画)
4.0
「未体験ゾーンの映画たち2023」祖国を守る為に極悪テロ組織に挑む兄弟が、カザフスタンの大地や空を駆け巡る純正スカイ・アクション。アップリンク京都で鑑賞。

原題「Vremya patriotov」ロシア語で訳すとPatriot Time。いや、パトリオットって何だよって話ですが、アメリカ英語で「憂国の士」沖縄の嘉手納基地に配備されるパトリオット・ミサイルの語源ですが、正しい発音は自衛隊の資料に依れば「ペトリオット」。敵国の弾頭ミサイルを迎撃する最終防衛ラインとして、航空自衛隊の高射部隊も保有。愛国者の時間が「タイム・オブ・ヒーローズ」邦題もブレてない。

カザフスタンの映画と言われてもピン!と来ない方も多いだろう。かく言う私も初レビュー。ロシア連邦でもウクライナやグルジアの様に映画制作会社の少ないカザフスタンは他国との連携に活路を見出す。キルギス合作「盗まれた花嫁」。チェコ合作「とうもろこしの島」。日本合作「オルジャスの白い馬」。何れも内戦の影を感じる粒揃い。私の推しは文芸作品「コーカサスの虜」今こそ見るべき反戦映画の傑作。

スカイ・アクションならプロットはテンプレで上等。トップガンのオマージュで有る事を良い意味で恥じる事無く、露骨過ぎるパクリも何のその(音楽も含む)。デレる事無くカザフスタンの心意気を見せるプロットは実に清々しい(褒めてます)。演歌歌手の師匠と弟子の様に、同じ歌を歌う事で成長する。日本にもトップガンをパクった織田裕二「BEST GUY」超黒歴史、航空自衛隊全面協力にも関わらず、実機の迫力と特撮のギャップが大き過ぎた。同じパクリでも本作とは真剣度が段違いと航空ファンの私も太鼓判を押したい。

単なる戦闘モノではなく、ロシア系らしく諜報部員の活躍もスパイスが効いてる。地上ではミッションインポッシブルの様なスパイ活動。空中では渓谷での曲芸飛行が本作の見せ場。機種はスホーイSu-27とSu-30SM、全てモノホン。トップガン マーヴェリックのF/A-18Fよりも格上の戦闘機にファンなら自在に動くロシア機に胸熱だろう。自衛隊機ならF-2では役不足、F-15Jで互角レベル。最新鋭ステルス戦闘機F-35Aライトニング?、単発なので見つかったら終わり(笑)。

Su-27のNATOコードネームはフランカー。トップガン マーヴェリックで登場した最新鋭ステルス戦闘機Su-57「フェロン」がロシアの秘技、プガチョフ・コブラを披露したが、本作でも急激に速度を落とせる為、相手に追い越させて後方に付くオーバーシュートが狙える。私もPlayStation-3「エースコンバット インフィニティ」試したが、急激に速度を失うと次の機動に支障が出るので、逆にミサイルの餌食に為る可能性も有るが、見た目はカッコいい(笑)。敵のSu-27をSu-30SMが追撃。訓練機は兵装が少ないので、パイロットのタクティクスも求められる。

アクション映画に詳しい友人に依ればカザフスタンは格闘技大国。レスリング、柔道、ボクシング等。カザフスタンはロシア連邦の中ではウクライナと並ぶ大国で、世界第9位の広大な国土を保有。民族格闘技カザックレスは、スポンサーも多く賞金も稼げるとか。大国の衛星国は武器が貰えず近接格闘が盛んな国が多い。本作も意図的に狭いアパートのアクションで、素人の私が観てもリアリティが有る。空中戦と格闘戦のコンボは次回作を見たい気にさせるに十分なシークエンス。日本のスバルも大活躍!(笑)。

秀逸なのはカザフスタンが人種の坩堝で有る事を配役で示した点。古代のモンゴル帝国、中世のイスラム、近世のロシアの支配に翻弄され、人種もアジア系のカザフ人、トルコ系のウズベク人、ロシア人にウクライナ人と民族デパートの様相を呈してる。スルタンを演じるDaniyar Alshinovも、一見するとアジア系中国人に見える。軍の幹部はバルト海のスラブ系、ガールフレンドはロシア系と複雑な国情も映してる。

トップガン マーヴェリックのレビューを書いた時「なぜ戦闘機なのに空軍では無く海軍なの?」よく聞かれた。逆に空軍の映画って少ないですよね。理由は空軍は朝出勤して夜自宅に帰れるから。戦闘機に乗りたいパイロットは誰でも勤務の楽な空軍に行く、だから映画を作ってリクルートする必要は薄い。海軍のパイロットは「空母」に勤務するので、家族と離れて暮らす方が圧倒的に多い。TomがJennifer Connelly と別れたのも遠距離恋愛だから。トップガンが徴兵啓発の国策として造られた事を隠す者は居ないだろう。

ロシアとカザフスタンの関係も一枚岩では無い。本作がトップガンを見て作られたと言う指摘は極めて浅い思慮、ウクライナ侵攻を見たカザフスタンがロシアに対抗する為に製作、と言った方が正しい。カザフスタンはロシア連邦の軍事同盟CSTO加盟国だが、資源が豊富なカザフスタンが連邦から離脱するのはウクライナの比では無い。しかも、ロシアが誇るガガーリン発射台が有るバイコヌール宇宙基地も有る。ベラルーシの様な単純な親ロシアでも無く、映画で世界第二位の軍事大国を牽制する。ソレでも貴方は本作をトップガンの模造品だとバカにするだろうか?。

30mm機関砲ドアップにカザフスタンの本気を見た(笑)。戦闘機ファンなら見逃し厳禁!。
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