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新生ロシア1991のギルドのレビュー・感想・評価

新生ロシア1991(2015年製作の映画)
4.0
【歴史の転換点に潜む讃歌と暴力の糸口】
■あらすじ
1991年8月19日。ペレストロイカに反対する共産党保守派がゴルバチョフ大統領を軟禁し軍事クーデターを宣言した。テレビはニュース速報の代わりにチャイコフスキーの「白鳥の湖」を全土に流し、モスクワで起きた緊急事態にレニングラードは困惑した市民で溢れかえった。夜の街では男がギターを掻き鳴らしウラジーミル・ヴィソツキーの「新時代の歌」を歌い、ラジオからはヴィクトル・ツォイの「変化」が流れた。自由を叫んだ祖国のロックが鳴り響くレニングラードは解放区の様相を呈し、8万人が集まった宮殿広場でついに人々は共産党支配との決別を決意する—— 本作品はレニングラードの8名のカメラマンが混乱する市中に紛れ撮影した映像をセルゲイ・ロズニツァが手にし、3日間で終わった「ソ連8月クーデター」に揺れながらもロシアの自由のため立ち上がったレニングラードを再構成する。

■みどころ
面白かった!
今年もロズニツァ監督の編集の凄みを体感する一本に出会えました。

ソ連8月クーデターのレニングラード現地で撮影した8名のカメラマンの映像を使って群衆の行方、彼らを導く人間、共産党保守派の攻防の3者を映すお話。

去年に鑑賞した「ミスター・ランズベルギス」と地続きになった映画で、ランズベルギス氏主導によって自由を得たリトアニアに感化された人間たちの蜂起を描き群衆にまで伝播していく。

撮られた映像が限定的なのか尺が短いのか、ロズニツァ作品の中ではコンパクトなボリュームではある。
が、短い尺の中で
・体制に対する本音と建前
・不信感から生まれる過去の悪習に逆行する事へNOと打ち出す群衆の強さ

を力強く描いたのは良かったです。
ミスター・ランズベルギスと違って群衆の存在が
・エリツィン大統領の掲げる自由を阻害する勢力に対抗する「熱量」
・自由という開放的な概念に対する「期待値」
のメタファーみたいな存在に感じる。

その中で群衆にも様々な顔が存在したり、お祭りのような大団円を醸し出したり…と歴史の転換点への歓迎と阻害要因に徹底的に反抗する気概を感じ、国に関係ない熱さを感じれた一作でした。

そしてこれまでのロズニツァ作品と同様に侵略・暴力の歴史は循環していく主題もしっかり伝えていて、転換点であっても糸口は何らかの形で不可避的に残る怖さも込められているのだ。

そういった意味でも歴史の一端に様々な顔が存在する佳作で良かったです。
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