噛む力がまるでない

PHANTOM/ユリョンと呼ばれたスパイの噛む力がまるでないのネタバレレビュー・内容・結末

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このレビューはネタバレを含みます

 イ・ヘヨンの新作となるスパイアクションである。

 オールスターキャストによる渋い密室劇と思っていたのだが、けっこう派手に動き回る諜報戦で、どんどん話が大雑把になっていき、最後は『RRR』のように帝国主義を打ち負かすという形で落としている(爽快さはあるが、抗日映画として見るとやはりちょっと後ろめたいところはる)。中盤からシスターフッドの軌道が立ち上がるが、帝国主義と女性の絆という点では『お嬢さん』とけっこう似ており、その精神をしっかりと受け継ぎつつ、火力強めな方向で拡張できるところが韓国映画のたくましさなんだろうなーと思う。『お嬢さん』と比べると俳優の日本語の滑らかさが段違いで(字幕なしでもほぼ聞き取ることはできるが、字幕がついているというのはバリアフリー対応にもなっていいことだと思う)、このあたりのアップデートぶりにもすごいこだわりを感じる。

 パク・チャギョン(イ・ハニ)と佑瑠子(パク・ソダム)がシスターフッドで結びつくことと、村山(ソル・ギョング)と高原(パク・ヘス)の男同士の嫉妬と憎悪が対比されていくようなホテルでの展開はお見事で見応えがある。フェミニズム的な考えが織り込まれている一方で、容疑者をホテルに集めてユリョンをあぶり出す計画の強みがあまりよくわからないとか、黒色団を一斉検挙する下りのアクロバティックな絞首刑はあれ何なんとか、ツッコミどころも満載である。気取ってるだけじゃないちょっとB級な志があるところもこの映画の確かな魅力だ。