オトマイム

戦いのあとの風景のオトマイムのレビュー・感想・評価

戦いのあとの風景(1970年製作の映画)
4.2
戦争が人々の心にもたらしたものは何か。
終戦・釈放の開放感、ドイツに対する勝利の優越感となお続く憎しみ、空虚感、ユダヤ人がポーランド人に持つ屈折した感情など様々な国民感情が、強く絡みあうのではなく肩を並べるように、時に交差しながら淡々と紡がれていく。
リアルタイムで戦争を体験したワイダ監督によって俯瞰的に繊細に描かれた戦後の風景。

一貫して冷静すぎるほど冷静なタデウシュはニナの熱い想いをを受け止めきれない。その温度差が切ない。けれども陽が傾いた中ふたりが散歩するシーンの美しさ、そして彼の人間らしい感情が堰を切ったように流れ出すショットはすばらしかった。

サントラが全編クラシック。縞模様の囚人服を着た集団がわあっと飛び出してくる冒頭に流れるのはヴィヴァルディ四季『秋』第1楽章、歓喜のシーンである。ワイダはオープニングの掴みが本当に上手いと思う。他にもヴィヴァルディ冬やショパンの使われ方が印象的。

ラスト、ひとり収容所を後にする彼のバックに音楽があっただろうか。思い出せない。荷車を引く達観したような後ろ姿。余韻がずっと後を引いている。