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岸辺露伴 ルーヴルへ行くのブタブタのレビュー・感想・評価

岸辺露伴 ルーヴルへ行く(2023年製作の映画)
5.0
『ジョジョの奇妙な冒険』スピンオフ『岸辺露伴は動かない』は同一世界ながら微妙にそのリアリティラインや世界観が違っていて、JOJOに於いては全ては《スタンド》で片付けられてしまう所に諸星大二郎的な古代神話や民族伝承
、水木しげる的妖怪譚が絡んで来る所がJOJOのスピンオフでありながら完全に独立した作品であり独自の世界観や輝きを放ってる。

そしてドラマ版『岸辺露伴は動かない』はこれ以上ない位の完璧な実写化作品だと思う。
実写版『第四部』(w)とは違い、あの荒木飛呂彦独特の絵、漫画を実写の世界に落とし込む、キャラクターのファッションひとつ取っても漫画の丸写しでなく「荒木飛呂彦のセンス」みたいな物を研究して其れを実際の俳優達が着るって事まで考え抜いてデザインされているのだと思う。

『アンダー・ザ・シルバーレイク』を見た時『JOJO第四部』っぽいというか、スタンド使いでない一般人がもし杜王町に住んでたらあんなわけわかんない事態に遭遇するのでは?と思ったんですが実写ドラマ『岸辺露伴』は正に「スタンド使いでない人間から見た『JOJO』」だと思う。

原作では一・二回登場位のモブだった泉京香を露伴の相棒に、この手のミステリーでは定番の「バディ物」にする事によってスタンド使いでない一般人目線でこの奇怪奇妙なお話しが展開される。
泉京香は岸辺露伴~というお話しの「記録者」でもありいつもあらゆる怪異は泉京香によって「なかったこと」にされてしまう。
露伴✖️京香の関係はホームズ✖️ワトソンに見えて寧ろクリスティーの『アクロイド殺し』におけるポアロ✖️シェパード医師の関係に近い。
『アクロイド殺し』は殆ど反則に近い形で「現実の改変」が行われる探偵小説なのですが『岸辺露伴』では泉京香というバディであり「非スタンド使い」によってあらゆる超常現象が泉京香の無意識下で否定され最後は現実世界に収束されてしまう。
今回の岸辺露伴・劇場版で泉京香の過去やドラマ版でも示唆されていた特殊性がいよいよハッキリして来て、京香は単なる「非スタンド使い」ではなくもしかすると制作者側も意図しない形でこのドラマ版における上位存在的なキャラクターと化している(かも)

JOJOは沢山スピンオフ小説が出てて岸辺露伴もスピンオフ小説が既にドラマ化されてますが、そのJOJOスピンオフ小説の中でも最大スケールの作品が舞城王太郎の『ジョージ・ジョースター』(但しJOJOファンには酷評)
1~7部のキャラクターが総登場し、勿論岸辺露伴も登場して四次元ハウスでの謎の密室殺人に遭遇したりする。
この小説では「ウゥンド(傷)」や「ビヨンド」といったスタンド以外の超能力の概念が登場する。
特に「ビヨンド」は「その人物がこの世界外の高次元の存在、即ち神(=作者)に選ばれた存在=主人公」である事を約束する物でつまりその人物は無敵、絶対に死なない。
つまり泉京香はドラマ『岸辺露伴』においては神(制作者側)に選ばれた「ビヨンド」を持っているキャラクターなのだと思う。

『岸辺露伴ルーブルに行く』は3部構成で「日本編」「ルーブル編」そして全ての謎が解ける「過去編」で出来ている。
後半は可也脚本・小林靖子によるオリジナル展開で劇場版の尺を考えてもよく出来てると思いますが之は意見が別れるところ。
正直自分は原作通りの地下室での露伴VS幽霊軍団のスタンドバトルが見たかったですが。

それから途中でいきなり「ゾンビ映画」になってしまう映画(及びドラマ)は大勝利作品だと言う持論があるのですが(例『ラストナイトインソーホー』『舞妓さんちのまかないさん』等)『岸辺露伴ルーブルに行く』もゾンビ映画大好き荒木先生によるゾンビ映画の始祖・御大・ジョージ・A・ロメロの『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』のオマージュを多分に含んでいる。
「地下室に避難」はゾンビ映画における最大の悪手でその状況からの脱出劇を『ルーブルへ行く』で荒木先生は描いてみたのだと思う。
「黒い絵」は明らかに(劇中では示唆されませんが)「ノトーリアスBIG」「アヌビス神」等の「本体が既に死んでいるスタンド」であり能力は「見た人間の過去の後悔を呼び出す」もの。
あの幽霊達の描写は完全にゾンビだし、エマが溺死した息子を幽霊の中に見つけて思わず行ってしまうのは『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』のラストのパロディ(オマージュ)

映画版ルーブルは言う事ない出来でしたが正直言えば原作通りの地下室でのゾンビ映画バトルを実写で見てみたかった。
『岸辺露伴』は映画だからと言ってドラマ版と違う所を無理してやったり余計なサービスとかしない所がまたいい所ではあるのですが、やっぱり劇場版だからドラマ版には無い、露伴のスタンド「ヘブンズドア」のビジョンが一瞬現れるとかやってもよかったかも。
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