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岸辺露伴 ルーヴルへ行くのなおのネタバレレビュー・内容・結末

岸辺露伴 ルーヴルへ行く(2023年製作の映画)
3.0

このレビューはネタバレを含みます

今や年末の風物詩と化している「岸辺露伴は動かない」、待望の劇場版。

原作は2009年に公開。
本作の舞台ともなっている、フランス・ルーヴル美術館と、出版業を手掛けるフュチュロポリス社が共同で実施していたバンド・デシネ(フランスやベルギー地方で誕生した漫画作品のこと)プロジェクトの第5弾として発表された。

✏️因縁
今や「なかったこと」扱いにされている、2016年制作「実写版ジョジョ」の苦い記憶を払拭する見事な実写ドラマとして、突如日本の年末に彗星の如く現れた「岸辺露伴は動かない」。

それの劇場版が制作されるということで、やはりそれなりの期待感を胸に劇場に足を運んだのだが…
なるほど、タイムラインに流れる皆さまの本作ヘの評点が軒並み★3.0~★3.5である理由がなんとなく分かった。

決して「全く面白くない」「駄作」というワケではない、しかし「見事な実写化だ!」と手放しで喜ぶこともできない、何とも評価を下しがたい難しい作品。

このモヤモヤを解消すべく、およそ10年前に読んだ原作を引っ張り出し…
といっても原作本は少し前に売り払ってしまったので、わざわざ電子版で原作を買い今一度読み返してみた。

自分は決して「原作ガー」と声高に原作と実写版の相違点をあげつらう”原作至上主義”的なことをしたいワケではないのだけれど、それにしても本作は原作と比較して「余計な脚色」が入りすぎている気がする。

✏️黒って200色あんねん
まず自分が指摘したいのは作品全体の「絶妙な間の悪さ」である。

これはもはや自分の性癖、いや”映画癖”なのかもしれないが、「良い作品」とは見ている者に時間を忘れさせ、作品の世界に観客を誘う没入感を与えるということが最大の条件だと思っている。

ドラマ版では確かにあったはずのその没入感が、本作にはまるでない。
最近の映画作品としては短い部類に入る2時間切りの時間であるはずだが、それ以上に時間が長く感じてしまった。

個人的に致命傷だと思うのは、露伴が「黒い絵」との対決を終え、件の「黒い絵」の種明かしが行われるシークエンス。

あの一連のシーンはほぼ本作オリジナルのもので、「黒い絵」がいかにして誕生したのか、なぜその絵を見た者は不幸に巻き込まれるのか…という本作における事件の仔細が語られるのだが、これがあまりにも「説明しすぎ」かつ「冗長」。

原作での「黒い絵」の種明かしは、作品全体の締めくくるような形であくまでサラっと、必要十分の説明を露伴が独白するような流れであり、読者は「事件の謎が分かった」という感覚を得ると同時に「一抹の気持ち悪さ」という感覚をも残したまま読了することとなる。

それが本作では、突然ちょんまげのヅラを被った高橋一生、もとい仁左右衛門が登場し、事件の種明かしがスタートする。
時間を測ったワケじゃないが、このシーンだけでおよそ20分くらいの時間を要しているだろうか。
あまりにも説明的であり、蛇足。

またこれは共に感想を語り合った友人の指摘だが、本作のキーパーソンである奈々瀬が、最後に露伴の前に現れたのはなぜか?
本来であれば「黒い絵」に近づいたり、絵を見た者だけに件の幻覚は訪れるはずだが、既に「黒い絵」は燃えている(と推測される)し、仮に燃えていなかったとしても「黒い絵」は露伴のそばにはない。
この矛盾をどう説明するのか?

また、Z-13倉庫に向かった美術館のメンバーは、原作では露伴を除き全員が絵の幻覚によって死亡(公式には行方不明扱い)となっているが、本作では通訳を担当した女性スタッフが1名生き残っている。

恐らくは泉京香と絡ませての”お涙頂戴”を狙いたかったのだろうが、日本ドラマの悪い部分が出てしまった。

あくまで「岸辺露伴は動かない」の魅力とは、
「よく分からないが、触れてはいけない」禁忌やタブー、ヤバい奴に触れてしまった時の気味の悪さを追体験するところにあると思うのだが、そのような魅力がことごとく殺されてしまっているように感じたのは非常に残念。

✏️評価点
ルーヴル美術館で行われたロケや、フランス語を流暢に話す演者たちによるドラマ部分は、露伴先生じゃないけど「リアリティ」満点。
あれ見たらいつか死ぬまでにルーヴル美術館行ってみたくなるな。

最後に泉京香が「絵を見ても何もなかった」と語っていたのも、京香が常に後悔のない人生を送っているということなのかな…とか、厚かましい性格だから「罪悪感」みたいなものを感じない性格なのかな…とかそんな妄想を働かせるチョッとした原作にはないシーンの存在も個人的には◎。

「岸辺露伴は動かない」を象徴するような、重々しく暗めの音楽も、「静謐なジャパニーズ・ホラー」を演出するのに一役買っている。

☑️まとめ
たぶんだけど、「劇場版!」と大々的にやるよりこれまで通り年末の時間を使って、90分くらいの枠でほぼ原作に忠実にやった方が作品的にうまくいったのでは…?と思ってしまう内容。

ちなみに自分が先に触れた原作本は、本自体の大きさが通常のコミック本とは違いB5判サイズとやや大きめで、お値段も約3,000円と少しお高めな「ファンアイテム」仕様。
しかし表紙には美しいエンボス加工が施されており、芸術性の高い見た目をしているので一見の価値あり。

現在は電子版も発行されており、1,000円あればお釣りが来るお値段なので、手軽さを求める方はそちらを購入するのが吉。

<作品スコア>
😂笑 い:★★★★☆
😲驚 き:★★★★☆
🥲感 動:★★★☆☆
📖物 語:★★☆☆☆
🏃‍♂️テンポ:★★☆☆☆

🎬2023年鑑賞数:61(27)
※カッコ内は劇場鑑賞数
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