rage30

87分の1の人生のrage30のネタバレレビュー・内容・結末

87分の1の人生(2023年製作の映画)
-

このレビューはネタバレを含みます

交通事故で婚約者の親族を死なせてしまう、女性の話。

主人公アリソンを演じるのは、フローレンス・ピュー。
強い女性を演じるイメージが強い人なので、彼女が薬物中毒の女性を演じるのは、なかなか新鮮でしたね。
心を病んでいるとはいえ、薬物を欲する時はピューさんらしい太々しさを感じさせる部分もあって。
その姿はどこか滑稽でユーモアがあり、アリソンというダメ人間を憎めない存在にしてくれた様に思います。

物語的には薬物中毒からの更生を軸に、アリソンと事故の被害者家族との交流が描かれます。
アリソンは依存症の自助グループに入る事で更生していくわけですが、彼女が自らの過去を告白するシーンは序盤のハイライトと言っていいでしょう。
自分が抱える問題を言葉にして吐き出す事で、自らに問題がある事を認め、問題のある自分を受け入れていく…。
これって、あらゆる更生に必要なプロセスだと思うし、この機能を果たすだけでも自助グループは必要なんだなと思わされました。

事故の被害者家族であるダニエルもまた罪を背負った男であり、似た物同士のアリソンとケアをしあう話になるのかと思いきや、ダニエルの孫ライアンによって、再びアリソンは薬物を手にする事態に。
あの状況でアリソンと元婚約者を引き合わせるライアンは頭がおかしいとしか思えないのだけど、結果的には荒療治になって良かったのかな?

劇中、アリソンがスマホの話題を避けていた事は引っ掛かっていましたが、とうとうダニエルがそこを突くんですよね。
ここまで伏線として引っ張った脚本もよく出来てるし、途中で「本質から目を逸らしているだけ」という台詞があった様に、これこそが本作の本質的なテーマでもあるのでしょう。

問題があれば、それを正面から受け止めれば済む話。
でも、それを簡単には出来ないのが人間というもの。
本作に登場する人物は、それぞれ問題を抱えながらも、薬物や酒やセックスに逃げてしまいます。
そうした経験は程度の差はあれ、誰しもが経験し得る事だと思うし、そういう意味では、非常に普遍的で共感し易い話と言えるのかもしれません。

正直、薬物中毒や交通事故といった設定に目新しさはないものの、それでも一つ一つの描写を丁寧に描き、魅力的なキャラクターを実力のある俳優が演じれば、十分に面白い作品になるのだなと思わされました。
ピューさんのファンは勿論の事、質の高いドラマをお探しの方にもオススメしたい作品です。
rage30

rage30