高橋早苗

風の谷のナウシカの高橋早苗のレビュー・感想・評価

風の谷のナウシカ(1984年製作の映画)
4.2
ナウシカは 戦わない
姫として 訓練も受け
やればできるけど やらない

周囲の「仕方ない」とか「あいつらさえ来なければ」とか
そういう“オトナ事情”的なものもない
遠慮もなきゃ 周りに合わせようみたいなこともない


彼女がしていることといえば
腐海で ひとり遊び
困った人を助ける

そして 感情表現も
抑えたりしない つか全開!

谷を占拠したトルメキア軍に父を殺され 逆上する姿は
まるで悪鬼

父を殺され ブチ切れて
敵をみーんな殺しちゃう
その怒りが観えるから 飾りものの姫さまじゃないと分かる

…当人も その場で気を失い
己の豹変ぶりに 後からさめざめと泣き崩れるくらいですからね


秘密の部屋で ユパに
汚れているのは土だと告げ
恐れおののき 泣き崩れる姿は
老成した子のよう


王蟲の抜け殻を見つけて 谷の皆と
チコの実をくれる子ども達を前に
清浄の地で アスベル相手に
嬉しさに泣き 無邪気に笑う姿は
ホント少女


そんな彼女は
外への働きかけもシンプル

戦いは「やめて!」
王蟲は「殺さないで!」
仲間は「みんな、必ず助ける!」
…全部 一択しかない
迷いがない


ただそれも
怒りに逆上する自分の姿を知ったから。本当に、身をもって知ったから。
己の怒りが何をしでかすか
まるで分からないと知ったから


この時、自分は
戦う必要はないんだと
無意識にでも 悟ったのではないかしら

もしくは そもそもそう感じていたことに
確信を得たのかもしれない


どちらにせよ、感じることは
その場で出す

その場その場で 出し切るから
自身の中では 面倒なことになってない

引き延ばしもないから いざとなれば
その身を 王蟲の群れの前にも投げ出せる
(あれこれ内に溜めてちゃ、あの行動は無理だわさ^_^)


彼女が 戦わない代わりに
してることは
ただただ シンプルで素直な表現


☆☆★


感情に振り回されがちな人からみれば
怒りは 何かと悪者扱いだけど
人に怒りが全くなければ それは“嘘臭さ”に直結

いつもいい顔して
いいこと言ってるだけの人って
どこか信用しきれないでしょう?


幼い頃から 当人が意識していたかどうかはさておき
王蟲の幼虫を飼い 腐海に分け入り
人間から見たら異物、異界を受け入れて共に生きてきた


瘴気を吸えば 5分で肺が腐ると 分かっていながら
城オジ達の前で マスクを外す彼女は
王蟲と共に生きながら 叶うことと叶わないことがあることを
幼い頃から 嫌という程感じてきたはず


そんな 積もり積もった怒りが
族長ジルを殺されたことで 一気に噴出した
父を助けられなかった 悔しさ、無念さ
もうどうにもできない、元には戻れない、戻せない

それは ごく真っ当な怒りで
悲しみで憎しみで。
怒りも持てるから 赦しもできる


感情には 良いも悪いもなくて
ただ 人らしさなんだと
そう教えてくれるのが
私にとっての「ナウシカ」です
高橋早苗

高橋早苗