冷蔵庫とプリンター

消えた目撃者の冷蔵庫とプリンターのレビュー・感想・評価

消えた目撃者(1950年製作の映画)
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フィルムノワールの隠れた名作。プリントの状態が悪いため撮影の良し悪しは断定しかねるが、ヒッチコック並みの卓越した物語運びでシンプルに面白い。

"犬の散歩中、ギャングの殺人事件の唯一の目撃者となってしまった男は、警察からの事情聴取の際に逃亡し、警察と犯人の両方から追われることになり、、、"

あらすじをここまで読めば、ごく凡庸なサスペンス映画といった趣があるが、しかし本作の主人公はこの男ではない。彼の妻だ。

"彼の妻エレノア(アン・シェリダン)は、夫が逃亡したのは、うまくいっていない結婚生活から逃れるためだと考え、警察への協力を拒否するが、新聞記者のレゲット(デニス・オキーフ)に助けられ、彼と共に夫を探すことになる。捜索を続ける中でエレノアは、夫の知られざる一面を知り、数年来冷え切った夫婦の絆を再確認する。一方、彼女の元には正体を隠した犯人の魔の手が忍び寄っていた。"

『恐怖への旅』等のB級ノワール作品で知られるノーマン・フォースター監督作。原案は女性作家のシルヴィア・テイトだそうで、なるほど他に類はない新鮮な視点が見られる。

まずもって、殺人事件と夫婦の関係修復とを結びつけるアイデアが面白い。アン・シェリダンの役柄も類型的ではない「冷淡な女」で、キッチン周りの小道具を活かしたプロットなどが際立っている。(キッチンの小棚にドッグフードしかなかったり、警察からの干渉をかわすためにキッチンに"あるもの"を使う)

冒頭の殺人シーンや、終盤の遊園地のシーンは、オーソンウェルズの薫陶を受けたフォースターらしい抜群の出来で、ジェットコースターの使い方も面白い。サンフランシスコのロケ撮影も見事。

今作における犬(死なない)の役割も考えられており、『ウンベルトD』を筆頭に犬が活躍する映画は数あれど(それ以上に犬が殺される映画もあるのだが)、登場人物が犬をダシにして目的を遂行しようとしたり、プロット上、犬を飼っている設定が存分に活かされており、その辺がスマートだったのも個人的には印象深い。

※廉価版DVDに収録されているクソ画質バージョンの他に、フィルムノワール財団(Film Noir Foundation)によって復元された美麗なバージョンも存在するらしい。