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レオシュ・ヤナーチェクのくりふのレビュー・感想・評価

レオシュ・ヤナーチェク(1983年製作の映画)
3.5
【昏き箱庭のオペラ】

クエイ兄弟の初期作品で、チェコの音楽家ヤナーチェクの伝記…というより、焦点を晩年の創作活動に絞り、そのスピリッツをクエイ濾しで炙り出したもの。

初めて見た時、ヤナーチェクの知識は皆無だし、確か日本語字幕もなく、言いたいことはサッパリだったが…画と音楽を通じ、過去行ったことのない処に連れて行かれた。よい映画体験で、クエイ兄弟が表皮的な喜怒哀楽を通り越し、深層に刷り込まれたのだった。

ヤナーチェクをちょびっとかじって見直すと、それなりにディープに作り込んでいると伝わる。といっても、そう感じられる大部分は、音楽自体が掘り下げる深みなのでしょうが。

パペットが助け、また豊かに邪魔をするクエイの箱庭ジュークボックス、という全体感。

焦点が晩年だと、狙ったのなら、エロス好きのクエイらしい、と思えます。

ヤナーチェクはその時期、38歳年下の人妻カミラへの猛烈な片思いに陥り、その力を源に、いまだに残る一連のオペラ群を産み出したそうだ。本作の大半は、そんな6作品を紐解くことに費やしており、カミラへの思いが時に、こちらにも迸ってくる。…飛沫くらい。

が、他作品で剥き出すような、ヴァギナに見える生肉、なんてのは映さず、クエイの画は慎ましい。エロスなパワーは、楽曲そのものの力に任せている気がします。

残念なのは、オペラの部分は、歌詞が字幕では出ないこと。ここがわかれば残りのピースが嵌って、伝わるレベルが格段に違うだろうな、と思います。

「マクロプロス事件」などは、347歳の美女がどんなことを歌っているのか、とても気になる。やはり、カミラを投影しているのでしょうけれど。本作では、美顔は鳥骨だけどwww

ヤナーチェクは、そのカミラの息子が迷子になったと思い込み、森の中へ探しに入って、肺炎に罹ったのが原因で亡くなったそうですが…本作の楽曲紹介部分は、森に始まり、森に終わります。これもちゃんと、意図的にそうしたのだろう、と思いました。

アニメーションは、後の完成度に比べれば素朴ですが、ヤナーチェクを知らなくとも、ちゃんとクエイの森に連れて行ってくれる作品ですね。

<2023.3.16記>
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