Taul

ザ・キラーのTaulのレビュー・感想・評価

ザ・キラー(2023年製作の映画)
5.0
『ザ・キラー』凄い。生き方の映画だった。

映像とテンポがクールで恐ろしくカッコいい殺し屋映画。そこにフィンチャーの仕事論や時代感を入れ込む。数値やデジタルに頼りつつ、好きなものを信じ潔く捨てる覚悟。ネトフリ作品らしいオープニングや流れを装うもスクリーン映えするノワールな画面の艶っぽさ。劇場で見る喜びがあった。

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『ザ・キラー』は打率2割のイチローのルーティンをずっと聞かされるような映画だった。

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『ザ・キラー』2回目はコミカル要素を楽しむ。その視線だとフリとオチだらけのコメディといってもいいくらいで、孤独な作業だけにツッコんであげないと思ってしまう程。ポスターも最初の渋い殺し屋を期待させるものから、2弾、3弾と出てくるのを見ると笑いが込み上げてくる。フィンチャー、狙ってるな。

『ザ・キラー』各章での殺しの対象者や独白から、どうしてもフィンチャーの自嘲的な仕事論や処世術が見え隠れする。最初と最後を含め、この手のジャンルでは驚きのプロットからも、この業界で生き残りながら、己の地位と愛を守るため戦う、強かな生き方の映画になっているようさえ思う。

『ザ・キラー』それでも一番はやはり映画のルックとテンポ。撮影とファスベンダーが決り過ぎてるし、編集が流れるようで、とにかくうっとり見られる。驚きは格闘シーンでこれくらい簡単だよと言わんばかり上手い。殺し屋映画としては『サムライ』、『ジャッカルの日』レベルを想起する、最新かつ最高峰のように感じている。

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『ザ・キラー』フィンチャーの配信に対する複雑な思いを勝手に受け取った。凝ったOPクレジットも配信だからねとすぐ本編に入るが、しばらく何も起きず気軽に展開で観るなと篩にかける。また明るい場所のディスプレイでは見にくい暗い画作りも多く、音の設計も凄くていい視聴環境を要求してくるようだ。

『ザ・キラー』劇中でもスマホやパソコンで映画を見るなみたいなジョークをかましてくる。ただ監督自身の生き方を重ねて見ると、どんな形態でも映画が作れるならと、ずる賢い選択をしてるようでもある。考え過ぎかも知れないが、やはり映画について言及してる映画として見る面白さがある。
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