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ザ・キラーのレントのレビュー・感想・評価

ザ・キラー(2023年製作の映画)
4.5
暗殺者とシンクロする。

原作はグラフィックノベルということで、本作の質をここまで高めたのは「セブン」の脚本家のなせる業か。
現実に存在するかもしれないプロの暗殺者の心理を作家的感性で想像を膨らませて、ここまでリアリティを感じさせるまでに重厚な筆致で描いた手腕はお見事。
全編暗殺者の主人公の一人称で語られる本作は、いつしか観るものが知らず知らずにこの暗殺者の心理と同化していくような錯覚を覚えるほどのリアリティーを感じさせてくれる。

主人公の暗殺者は知性的で几帳面、合理的思考の持ち主。そして健康志向でもある。その知識は無辺世界、ディラン・トマスといった仏教用語からウエールズの詩人まで、またあらゆる統計的知識と多岐にわたっている。
かつては法律も学んでいたという。それらの知識すべてが彼の仕事のためだけにある。すべては目的を達成するためだけに。

それらの教養やあらゆる暗殺スキル、加えて目的達成のためにもっとも欠かせないもの、それは自身の感情コントロール。
計画を重視し、即興は避ける。対価に見合う戦いのみ行う。誰も信じるな。感情移入はしてはいけないそれは弱さにつながる。彼は仕事を行う際には頭の中でそれらを何度も反芻する。完璧に仕事をこなすためには自身のマインドコントロールが不可欠だからだ。
たとえ熟練の暗殺者であろうとも人間である限り感情が邪魔をすることがある。仲介人の弁護士の秘書、同業の女性を手にかけるとき、情に流されまいと彼は感情移入を強く拒絶する。それこそが彼の持つ人間らしさでもある。
冷徹で完璧を目指していながら、偽装ナンバープレートを無造作にゴミ箱に捨ててしまう。冷徹な暗殺者でありながら人間的弱さもやはり併せ持つ、そんな彼に感情移入してしまっている自分がいた。

Amazonの通販利用、スマホの地図検索、スマートウォッチでの血圧測定、たまりまくりのマイル等々、細かなディテールにこだわって想像で描かれた暗殺者の生態、それはいまのこの社会で本当に存在しているのではないかと思わせるほど我々鑑賞者に真に迫ってきた。

フィンチャー、ファスベンダーがタッグを組んだ新作は期待をはるかに超える傑作だった。アクションだけに特化して中身がない最近の殺し屋映画には辟易していたのでこういう映画は大歓迎。
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