Hiroki

ザ・キラーのHirokiのレビュー・感想・評価

ザ・キラー(2023年製作の映画)
4.1
最近の嬉しいニュースはやはりSAG-AFTRAのストがついに終結!(WAGのストも一足先に終結済み。)
報道によるとほぼSAG-AFTRAの主張が通った(ただし重要事項のひとつ“ストリーミングサイトにおける収益の分配”には関しては望み通りとはいかなかったとの事。)ようで、俳優も脚本家もたくさん痛みを伴ったけどそれでもこーやって自分たちの力で権利を獲得していくのはいかにもアメリカだなーと。
これで止まっていたほぼすべての公開や撮影が動きだしたので一部を書き出します。興味ない方はざっと飛ばしてください。

◯ミッション:インポッシブル/デッド・レコニングPART2
PART1のプロモーション中にストに入りPART2の撮影を再開できずにいた今作。
なんと公開予定が2024年6月から2025年5月にリスケジュール!
あの続編が観れるのは1年半後...

◯ヴェノム3
SSUの人気シリーズ続編は6月に撮影がスタートしたものの翌月には撮影がストップ。
撮影は既に再開済みで当初の2024年夏公開予定が11月に延期予定。

◯デッドプール3
みんな大好きデップーの最新作はほぼ半分が撮影済みでストップ。
2024年5月公開予定には間に合わないため7月公開に延期。
新キャラ登場予定!

◯グラディエーター2
巨匠リドリー・スコットが約20年ぶりに続編に挑む今作は3分の2ほどが撮影済みでストップ。
近日撮影再開予定で2024年11月の公開予定に間に合わせる予定。

◯ウィキッド
大人気ミュージカルの映画化作品は撮影終了まであと10日というところでストップ。
近日再開予定で2部作となりPART1が2024年11月、PART2が2025年クリスマスに公開予定。
1から2まで1年あるんだ...

◯ビートルジュース2
最も不運に見舞われたのはティム・バートンが35年ぶりに続編を撮る今作でなんと残り1.5日を残したところで撮影がストップ。
残りの撮影を再開して2024年9月公開を目指す。
ちなみに新キャストとして『ウェンズデー』ジェナ・オルテガが参加。

◯DUNE/デューン 砂の惑星PART2
全撮影を終えていたもののプロモーション不足を回避するため公開延期になっていたが、現在の北米公開スケジュールの2024年3月15日から2週間くりあげて3月1日に無事公開に。
しかし来年オスカーには間に合わず無念。

といった所です。
そもそもストの対象はAMPTPなので基本的に止まっていたのは大作が多く、A24など独立系好きの方には関係ありません。
そしてデヴィッド・フィンチャーに関しても基本脚本書かない系の監督なので関係なし。
もちろん撮影が止まったり脚本が遅れたりはあったと思うけど。
というかフィンチャーはNetflixとコンテンツ契約をしているので、どちらかというと大人しくしていないといけない側。おそらくこの契約そろそろ終わると思うけど...

という事で長くなったけど今作いきます!
2023ベネチィアで高評価だった作品。
映画祭の後にすぐに観れる(期待作だと映画館でも観れる!)のが配信作品の良いところ。

デヴィッド・フィンチャー×アンドリュー・ケヴィン・ウォーカー。
そして制作がブラピのPlanB。
もーこれだけで映画好きは絶対チェックせざるを得ない!
元々はMatz &リュック・ジャカモンによるフランスのコミックスを2007年にフィンチャーが映画化することを発表した作品。
Netflixが契約したのが2021年。
最初は制作会社も脚本家も違かったらしい。
本当に映画を作るのって大変...

フィンチャーとケヴィン・ウォーカーは『セブン』以来のタッグと囃し立てられているが、『ゲーム』も『ファイト・クラブ』も脚本の修正に関わっているし『パニック・ルーム』ではなぜかカメオ出演している。アニメシリーズの『ラブ、デス&ロボット』でもフィンチャー監督回の脚本を書いている。
まさに信頼し合う名タッグ。
ただこれ『セブン』の再来のサイコスリラー的な煽り方もされているけど、内容は全く違う。
ケヴィン・ウォーカーは初稿段階でフィンチャーから「主人公(マイケル・ファスベンダー)のセリフを全体で10行にして欲しい」と頼まれたと話していた。
本編を見ればわかるがこの作品、119分の間ほとんどのシーンにファスベンダーが登場する。しかも周りのキャストがあまり重要な役割を担わないほぼ1人芝居状態のシーンが非常に多い。
それでセリフ10行って...
まーその秘密は自問自答のように語られ続けるナレーションなんだけど。
実際ケヴィン・ウォーカーは「これが最大限」と初稿13行でフィンチャーに送ったらしい。凄すぎるエピソード。

さらにそのナレーションの部分が面白くて、これはフィンチャー&ファスベンダーとライアン・ジョンソンのティーチイン(YouTubeに動画があるので気になる方はそちらを)で出ていたお話。
劇中の自分語りナレーションで主人公は「即興するな」と自分に言い聞かせているが実際には即興をしているか?という質問に対してフィンチャーは、
「即興しているよ。面白いのがモノローグ(自分語りナレーション)で自分について語っている時に観客はあたかもそれが事実だと思い込んでしまうんだよね。鏡の前で“俺はボスだ!”と言い聞かせたとしても本当にボスなわけではないのに。」
これはかなり真理だなーと思って、観客は映画(ドラマでも)の中で語られる事って本当なんじゃないかと思いがち。これを逆手にとっているのがミステリーの常套句である“信頼できない語り手”なのだけど。
観客の心理は「フィクション(作り物)なんだから主人公が嘘(事実ではない事)を話すわけがない」
映画の登場人物たちは言葉を噛む事も詰まる事もない。だからこそ言っている事も正しいはずだと。
でもこの時観客は“即興(あるいはアドリブ)”ということを忘れている。
つまり登場人物が元々思っていた事や考えるべき事から逸れて、その場で何かパッと思いつく可能性。それを映画として切り取る可能性。
なぜが私たちはそれを排除して鑑賞している。
だからこそ劇中でファスベンダー演じるザ・キラーは何度も自分に言い聞かせる。
「即興するな。」と。
そしてそれでもそこには即興が溢れでてしまう。
もはやザ・キラーが語る「自分は失敗したことがない」という言葉すら曖昧になってくる...
ここらへんの作り方は非常にフィンチャーらしくて興味深かった。

あとはザ・キラーが人間をどんどん殺しまくっていくのに、途中で邪魔をしてくるピットブルは殺さないで眠らせるのがたまらなく良い。

キャストはファスベンダー以外は本当に空気みたいな感じ(というかそれに徹している)で進んでいくのだけど、終盤で突如現れる“綿棒みたいな女”ことティルダ・スウィントンの存在感が凄い。
ほぼワンシーンであの圧力。
まさにスター。

フィンチャー作品常連のトレント・レズナー&アッティカス・ロスの素晴らしいスコアと全体の静寂の中で何度もかかるThe Smithsもまたかっこいい。

本当に映画としての良さが詰まりまくっているのでぜひ映画館で観るべき作品。
これは前作『Mank/マンク』同様に2024オスカーに関わってきそうな予感!

2024-61
Hiroki

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