Masato

ザ・キラーのMasatoのレビュー・感想・評価

ザ・キラー(2023年製作の映画)
3.9

デヴィット・フィンチャー監督の殺し屋映画。クライムスリラーのようでシュールなコメディ。コメディのようでスリラーな映画。

ジャンル的な要素を抑えに抑えたクライムスリラー映画でモノローグが響き渡る主人公の一人称の視点で物語が展開していく。アクション要素は少なく、娯楽性は薄いが、洗練された無駄のないスマートさが癖になる映画だった。

しかし見方を変えると、シリアスさがフリになってるシュールなコメディ映画じゃね?って思えてくる物語なのが変で面白い。まず一章のあれだけプロっぽいことをつらつらと心の中で喋りまくってたのに注意散漫になって凡ミスしてんのが笑えたし、その後にスタスタと逃げる様が情けなくて面白い。

一応パートナー?の復讐という名目で雇い主を見つけようとするけれども、凡ミスした自分に対する許せなさを復讐を口実に当てつけしてるようにしか見えなくて、段々と偉そうな口調のモノローグが失敗したことを覆い隠そうとする言い訳にしか聞こえてこなくなる。ティルダ・スウィントンのセリフがまさに図星。見た目や腕前のそれっぽさの割に、心の中が「しっかりするんだ!」と乱れまくってるの、思い返すと笑えてくる。

緻密に殺しのプロセスを見せていくことでプロであることの説得力は確かであり、腕前は一流だ。だが何かの拍子に失敗に陥ってしまうという、完璧主義にびったりとくっつく失敗に対する恐れ、いわば強迫観念を描いたような映画に思える。異常なテイク数でスタッフやキャスト泣かせと言われるフィンチャー自身の完璧主義さを描いたのかもしれない。映画撮ってるときも本作の主人公みたいに心の中でブツクサ偉そうなこと喋ってんだろうと思うと笑える。

淡々とターゲットにあらゆるやり方で近付いていく様を緻密に見せていく無機質なカッコよさ、スマートさが最高に良いよね。憧れるので一度はやってみたい仕事。

マイケル・ファスベンダーの感情が死んでる顔が凄くいい。あのギョロッとしていて全く閉じようとしない目の怖さは一流。ブラピじゃこの顔作れないな。ファスベンダーじゃなきゃやりきれなかった。大正解のキャスティング。

それとアクション満載とか煽らないでほしい。そのせいで意図した見られ方しなくて評価が下がってそう。こういうのは騙さないでちゃんと宣伝しないと。この世界観でアクションをもっと見たかったのも事実だけど。
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