"チェスの醍醐味は、相手のエゴを砕く瞬間だ…"
ロッテルダム港…アメリカへと出港するその豪華客船に乗り込むバルトーク…
あの日以来…再会した妻は言う…"痩せたわね…髭も剃って…あの髭よく似合ってたのに…"
ナチスがオーストリアを併合した日…公証人であったバルトークはゲシュタポに拉致され、貴族の隠し財産について尋問されたのだ。
だが協力を拒んだバルトークは、"特別処理"の部屋に監禁されてしまう…
監禁されたバルトークの心の支えとなったのが一冊のチェスの本…
…客船の中では、チェスの世界王者が乗客と対戦していた…王者が圧勝するかに見えたがバルトークのアドバイス通りにコマを動かした事で引き分けに持ち込むことが出来た…
バルトークの強さを知った船のオーナーは、バルトークに世界王者と対局するよう依頼することに…
なんちゅう話じゃあ…ナチスに反抗したことで監禁され、肉体的にも精神的にも徹底的にやられた公証人の主人公が唯一心の拠り所となったのがチェスの本…
ただし…本作は息詰まったチェスの対局が見どころではありません…ある意味、チェスのような心理戦とは言えますが、追い込まれていくバルトークの姿と意外な一手でナチスを撃退する話なのです…観ていて、キリキリと胃と胸が痛みますが…
複雑な構成で、当初は"?"な展開があるのですが、バルトークが追い込まれていく様子から事の真相が徐々に分かってきて、緊張感溢れる中々一級のスリラーを魅せて貰ったと私は感じました。
"帰ってきたヒトラー"でアドルフ・ヒトラーを一癖も二癖もある演技で演じ切ったオリバー・マスッチが、本作ではまるで逆な立場を演じているのは面白いです。
この方、結構な悪人顔で追い詰められながらも太々しい態度だったりして面白い…段々マッツ・ミケルセンに見えてくる…マッツにやらせても面白かったかもしれません。
意外な一手を見せるバルトーク…それはナチスの恐ろしさと残虐さを改めて感じさせ、嫌〜な後味を味わせる作品ですが…私は好きです…