囚人13号

ナチスに仕掛けたチェスゲームの囚人13号のレビュー・感想・評価

3.7
ブルジョワがナチスによって衣食住"しか与えられない"長い精神拷問生活の中で偶然盗んだチェス解説本は彼にとって文化的生命線のみならず、理性を保つ唯一のツールとなる。

着眼点が中々面白いし監禁と競技空間としての密室が共鳴した結果、終盤のホラー的主観フラッシュバックに繋がっていくと思われるが、ナチスの糾弾とチェスの心理戦は共に一本の映画として十分撮れてしまうテーマなので、少々欲張りすぎたかというのが率直な感想。

王者が十数人を同時に相手している威圧的な雰囲気を切り裂くように入室していく瞬間、また乾いた音を立てて数センチ移動する木片に周囲が熱狂するという競技そのものを映画に定着させる撮り方が上手かったので、どうせなら『ハスラー』のようにそれ一本で勝負してみてもよかったかなと。
だが先述の霊的シーンを見て結局これが撮りたかったんだなと分かった、(トラウマ的観点からのナチス批判も含んでいるので)つまりチェスである必然性を敢えて強調しない半端さが欠点であり美点なのかな。

窓から差し込む日光の形状/入射角がサイレント映画みたいで印象的。
囚人13号

囚人13号