がく

一発逆転のディベートレッスンのがくのレビュー・感想・評価

4.0
本作の感想を見てると、いかに日本の教育に「議論の機会」が欠けているかを感じクラクラしてしまう。教育におけるディベートの必要性に関する問題意識を持つために必見の作品と言えるかもしれない。

論拠をもち、論理を通し、相手を納得させること。これは社会で暮らすにあたって当然必要となるスキル。ネットミームの「テニスボールはなるべく凍らせた方がいいと思われがち」で始まる動画を見ておかしさに気付けないレベルを想定して、その何が問題か考えるとわかるはず。

これを疎かにしていると、本編で言われるような「真実のない」話術に易々と騙されてしまうように思う。

詐欺を働く方が悪いのは倫理的に当然だけれども、論理の欺瞞をその場で暴けないようであれば、詐欺師にとっての天国になってしまう。

実際、この国ではカルト宗教や強引な話術人間に都合良く搾取されてしまっている。あろうことか弱者だけでなく与党国会議員まで現状の有り様である。

批判や反論に「感じの悪さ」を感じるような「議論」と「悪口」の区別もつかない人がこの国には多い。残念ながら。

本作のように大学での特別講義だけでなく、大人になってもディベート能力を磨く意識が必要だと思う。まともな企業ではその機会が用意されるだろうけれども、余裕を失った斜陽社会では意識をしていないと気付かぬうちにその機会は減らされていくだろう。

本編ではディベート能力を磨いた者がその能力を持たざる者の代弁者となることで正当に活用される道を描いていて明るい。
さらに、その能力を磨くことなくそのままの者とも手を取り合い生活する未来を予感させる。ディベート能力があくまで自己実現のツールとして主題ながら控えめに描かれる。

しかし、虚実ないまぜの情報氾濫社会にあってこれからの健全な社会を築くには、誰もにとって必須ツールとなる最重要なスキルのひとつだとも思う。本作がその必要性を感じるきっかけになればと思う。(最適な作品とは言い難い軽い仕上がりの作品だと思うので、より完成度の高い適切な作品を探したいけれど、このテーマの作品数が少ないように思われる)

本編でディベート能力を開発した教育者が高貴な意志を持つ者ではなく、人間性に欠けた問題者であったことは、届きにくい人に届けるひとつの橋になっていると良いなと思う。本作の重要な特徴のひとつになっている。
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