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アンダーカレントのRickのレビュー・感想・評価

アンダーカレント(2023年製作の映画)
4.8
 「知っている」ということと、「わかっている」ということは同じようで、その実は全く異なる。こんな経歴がある、こんなことを経験したという、その人の客観的な履歴を知っているからと言って、何をどう感じているのか、何にどう対処するのかなんて主観的なことに関してはこれっぽっちも解らない。哀しい哉、分からないのだ。もちろん、その人が故意に隠していることだってあるだろう。騙しているのかもしれない。でもそんな単純な「二面性」や「悪意」で済ませられるほど、ことは易しくない。因果関係で解ることは案外少ない。人の心なんて一瞬で矛盾するし、論理なんていくらでも破綻してしまう。「本当の自分」や「真実」を求めたって、自分の中でさえ、確固たる像を結ぶことはできない。そんなもんかもしれない。でもその曖昧さで以て、人は生きていく。自分を守るため、そして他者と繋がるために。底に流れる水に沿って、どうしようもなさと共に。
 抑制の効いた演出で、人について、感情について描かれるので、ついこれこそが人間の真理だと思ってしまう。そんなもんだ、仕方ないよねと。そう断じてしまうことすらも、表層をなぞるだけなんじゃないかと、立ち止まって深く考えたくなる作品だった。悲しみを携えながら、深く深く生きていく登場人物たちの目に射抜かれたような気がする。役者陣の演技が本当によく、どういう結末に向かってもそれが彼らの選択ならばと受け入れてしまえるほどだった。
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