ぶみ

アンダーカレントのぶみのレビュー・感想・評価

アンダーカレント(2023年製作の映画)
3.5
偽りも、本当も、抱きしめながら、生きていく。

豊田徹也による同名漫画を、今泉力哉監督、真木よう子、井浦新主演により映像化したドラマ。
夫が突然失踪した銭湯の女主人と、そこに住み込みで働くこととなった謎の男等の姿を描く。
原作は未読。
家業の銭湯を継いだ主人公となる女主人・かなえを真木、住み込みで働くこととなった男性・堀を井浦、かなえの夫探しを依頼された探偵・山崎をリリー・フランキー、失踪したかなえの夫・悟を永山瑛太が演じているほか、江口のりこ、中村久美、康すおん、内田理央等が登場。
物語は、突如夫が失踪したかなえが、堀と銭湯を営む姿が中心に描かれるのだが、まず、カバン一つで住み込みで働くことを決めた堀が、最低限の言葉しか発せず、食事はきちんと正座して食べるという、何とも言えないミステリアス性を発揮しており、まさに井浦がハマり役。
何より、失踪した夫という設定自体が、サスペンス色を強くしているのも、今泉監督作品としては目新しいところであり、時折挿入されるかなえの心象風景のようなカットも若干ホラーテイストで、かなえが何か抱えているのだろうというのを端的に示しているものとなっている。
そして、フランキー演じる探偵・山崎が登場したあたりから物語が静かに動き出すのだが、山崎の登場シーンが、喫茶店でサングラスをして、ソファで崩れながら寝ているという、ザ・胡散臭い探偵最強の状態であり、言葉はなくともインパクト抜群。
その後も、左ハンドルのフィアット・パンダに乗り、カラオケ店で状況報告を行うという、コメディリリーフ役を一手に引き受けているような飄々としたキャラクターは、物語を推進していくには十分過ぎるもの。
加えて、銭湯の常連で煙草屋を営む康演じる田島も、これまた飄々としながら、物事の本質を静かに見つめているキャラクターであり、下町には欠かせない人物として、存在感抜群。
また、全てを台詞で説明する作品が多い中、絶妙な間合いと行間を積み重ねるとともに、例えばマツダ・ボンゴトラックを運転しながらの長回しによる会話劇を筆頭として、人と人とがわかり合えるのかどうかを淡々としたドラマの中に提示してくるのは流石の一言。
考えてみれば、生活をともにする妻やこどものことの何をわかっているのかと問われると、答えられないものであるし、逆に自分のことを、他人にわかって欲しいのかどうかすらわからないのも事実。
そんな複雑かつ繊細な人間の機微、これを私はアンダーカレントと理解したが、その機微をキャストの確かな演技と絶妙な間合いで描き出し、サスペンスというスパイスをほんのりふりかけることで、よりメリハリを効かせているとともに、細野晴臣による劇伴が、静かな心のさざなみを表現しており、リリー・フランキーがリリー・フランキーしている作品を観たいのならば間違いない一作。

何しに来たんだね、お兄さん。

※作品の内容とは関係ないエピソードを一つ。
私はなるべく開場時間ギリギリに行き、極力前後左右が空いている席を取るのですが、入場後、私の目の前の席に、いそいそとドリンクとポップコーンを手にした60代と思しき女性が座ってきたため、再度スマホから席の予約状況を確認したところ、その席は空席のまま。
おかしいなと思いながらも、声をかけられず、そのまま上映時間となり、予告編がスタート。
その後、本編が始まって数分、タイトルが浮かび上がった際にようやく観ようとしていた作品と違ったことに気づいたのか、いそいそと会場から出て行った次第。
そのため、結果快適に鑑賞できたものの、後から調べてみると、同時刻に向かいのスクリーンで『ジョン・ウィック:コンセクエンス』を上映していたため、間違えたものと推測。
失礼ながら、シニア層の女性でも、ジョン・ウィックを一人で観るんだなと思ったら、何だか微笑ましくなりました。
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