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アンダーカレントのmanamiのレビュー・感想・評価

アンダーカレント(2023年製作の映画)
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原作は出だしだけ読んだことがある。そのほんの少しの印象しかないながらに、映画化を知ったときには「あの薄暗い漫画を今泉力哉監督が?」と意外だった。
実際に観てみてもその感想は変わらず。エモもキュンも、ニマニマもクスクスもないし。
なにしろ開始早々、湿っぽい。主人公(真木よう子)は実家の銭湯を継いで夫と共に経営していたのに、ある日突然、夫が失踪してしまったというのだから。ただしそれが本当に「突然」なのかそれとも「必然」なのかは、当人にしか分からないのよね。回想シーンを見て「あぁ…」と何かしら察するものがあったとしても、それは彼らの外側にいるから、現状を知っているからという、結果論に過ぎないんだから。
最初の朝ごはん。「良かったらどうぞ」ってことは、勝手に作ったんだよね。好みも量も、食べるかどうかすら聞かずに?ちょっと無理だなぁ、私ならそこでさっそく壁作っちゃうなぁ。そんな感じで、かなえは最初、ややがさつなところのある人物として描かれる。
そして彼女のもとを去った夫と、入れ替わるように現れた男、二人の謎が解き明かされるにつれ、「自分と他人」「嘘と真実」が混ざり合っていく。自分以外の誰かのことを「わかる」って、なんなんだろうねぇ本当に。
「自分のためにつく嘘はダメ、人のためにつく嘘はいい」なんてこともよく言うけどさ。それなら苦手な食べ物を好きなふりしてみせるのは、「相手への思いやり」なのか、「嫌われないための保身」なのか。「人は心地のいい嘘が好き」って彼の言葉、この場合の「人」は、嘘をつく本人のことでもあるし、つかれる相手のことでもあるんだろう。
粋なタバコ屋のおじちゃんだって、負けたくなくて、ニ歩とか気付かないふりしてるのかもよ?それにしても「人がどう見えるのかと何をするのかは、あまり関係がない」は名言だよな。
いまいち理解に苦しむのは悟の言動。特に〇〇を雇ってたのはなんで?自分が去った後を知って、どうしたかったの?彼の生まれ育ちからすると、「責任」を前にすると逃げ出したくなるんだろうなというのは想像がつくけど。周りももちろん大変かつ迷惑よね、でも本人もすごく生きづらいだろうな。自分が自分に翻弄される人生。
それから印象的なのは、画面に「水」が映っている時間が長いこと。私たちの生活を快適に清潔に保ってくれるものでもあるけど、人はほんのちょっとの水で簡単に溺れもする。川沿いの散歩道、海辺のカフェ。あとは表情を見せない演出や、奥行きを見せるアングルも記憶に残る。それも「底流」の表現か。

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