シズヲ

バニシング・ポイント 4Kデジタルリマスター版のシズヲのレビュー・感想・評価

4.0
『イージー・ライダー』のワイアットとビリーはアメリカの自由を見つけられなかったが、本作はある意味で“その後の世界”。自由なき世界に現れた最後のヒーローの疾走である。ほんの数年前にアメリカン・ドリームさえも押し潰した果てしない荒野を、このダッジ・チャレンジャーの男はただ颯爽と走り抜ける。無名の俳優に過ぎなかったバリー・ニューマン、そして彼が駆るマッスルカーのカリスマ的な風格に痺れる。

60年代アメリカと地続きのカルチャーや警察などに対する社会不信が垣間見えるのが印象深い。カリスマ的DJであるスーパー・ソウルが流すサウンドの数々も、ポスト『イージー・ライダー』的な味わいに満ちている。ガラガラヘビの爺さんが出てくる中盤以降はカーアクションが控えめになるのは惜しいものの、ラストのインパクトで結局惹かれてしまう。目的地を目指してパトカーを振り切りながらひたすらハイウェイを走っていく内容、そのシンプルさも相俟って何処となく往年のアーケードゲームめいてる。

ベトナム戦争の傷痕、夢と愛の挫折、そして公権力への不信感。60年代アメリカの病理と矛盾を背負ったこの男は、その全てから解き放たれるかのように突き進んでいく。広大なハイウェイを引きの絵面で捉えた撮影の数々は半ば神秘的。カーチェイスという鋼鉄の肉体を伴った実存的なアクションを経て、コワルスキーは観念的な世界へと極限まで肉薄していく。

あの男は何を見ていたのか。何を証明しようとしていたのか。あの光の果てに何を見ていたのか。ただ確かなことは、荒野を走り抜ける彼の姿が人々の魂を解放したことであり、彼はあの消失点の彼方へと消えていったことである。閉塞的だった『イージー・ライダー』とは異なり、ある種の希望とロマンに満ちている。あの男はダッジ・チャレンジャーと共に、実存的な世界の彼方へと向かっていったのかもしれない。

しかし何度見ても「何故あの姉ちゃんは全裸でバイクに乗ってるんだ?」となるので味わい深い。そして『セルロイド・クローゼット』でも取り上げられたゲイの強盗だけど、カウンター・カルチャーの時代においても性的マイノリティーへの偏見が厳しかったことを改めて感じてしまう。
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