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氷の微笑 4K 30周年記念レストア版のmimagordonのレビュー・感想・評価

5.0
あなたが来るとわかってた。類は友を呼ぶ。キャサリンと視線があった瞬間、ゲームは始まった。冷たい微笑みも生暖かい涙も、全てはアイスピック。他はみな、キャサリンに砕かれる氷。ゲームは常に彼女が握る。

善悪や正誤などの二項対立を徹底的に避けるヴァーホーヴェンが描くキャサリンは、いわゆるノワールにおける「ファム・ファタール」に留まらないキャラクターを作り出している。キャサリンは単に主人公を破滅に導く存在ではない。むしろ破滅を後押しするような、狡猾で妖艶なプレイヤー。小説の主人公は既に破滅への道に片足を突っ込んでいる。ニックも然り。そしてキャサリンはニックの本性を炙り出すかのように巧みにリードしていく。同類同士なのだ。しかし殺しもセックスも、ニックにとっては本能であり、キャサリンにとってはゲームの一手。そう、ヴァーホーヴェンの映画では常に女性キャラクターは男性キャラクターの一歩先を進んでる。そしてキャサリンのゲームは、叙述トリックという手法で観る者をもリードしていく。犯人が誰か?パズルのピースを埋めるのはさほど難しくない。だが、この映画の魅力は犯人捜しではない。キャサリンのゲームに、ニックと共に絡みとられるスリルにあるのだ。ヒッチコック風の演出と、まさにバーナード・ハーマンにオマージュを捧げたようなジェリー・ゴールドスミスによる素晴らしいスコアに後を押され、観る者を撹乱する。そしてヴァーホーヴェンは我々の「本能」に目を向けさせるのだ。映画そのものは第三の壁を破ることなく、我々に問いかける。あなたの「ラスト」は、どうなった?大傑作。
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