とむ

世界の終わりからのとむのレビュー・感想・評価

世界の終わりから(2023年製作の映画)
3.0
ある種、今一番の話題作と言っても過言ではない紀里谷和明監督最新作。
公開館数も少ない中、おそらく公開期間も短いと思われるため遠出しての鑑賞。


自分はというと、紀里谷和明監督は「厨二くせぇ」と笑っちゃいながらもどこか惹き込まれる要素を持つ作品を作る作家の一人で、
「CASHARN」「GOEMON」は映画として相当不恰好なのは認めつつ、嫌いなれない魅力はあると思ってます。

但し、どの作品にも共通してるのは前半の展開で「お、意外とイケるじゃん!」と思わせておいて後半著しく失速するという特徴。
風呂敷を広げる能力はまぁ…無くはないけどとにかくまとめる力がないって印象。
映像的にやりたいことが先行して脚本が弱いんだろうな。

更に根深い問題のひとつとして「自分の思想を勝手に深刻化して、勝手に世界に絶望する」という、まぁ良く言えば自己陶酔的なアーティストの側面が強い作家の一人だと解釈してました。


で、今作がどうだったかというと、
前述した監督の癖がそのまんま露呈した作品になったなぁという印象の作品でした。
やっぱり脚本が弱かったし、やっぱり勝手に深刻化して勝手に絶望してた。


映像的にはかなり見応えもあるし、
撮影時点で「こういうのがやりたい!」っていうビジョンが見えてる状態で撮影に挑んでるだろうシーンも散見されるから、
当然映像を作る能力がない人ではないんだけど、とにかく脚本が酷い。

そもそも紀里谷監督の描く「大衆」があまりにも類型的な描き方すぎて、言っちゃ悪いけどもうちょっと大人になりなよ…と思ってしまった。
世の中ってそんなに一枚岩じゃないでしょ。
あなたの周りにいて、映画に協力してくれてる人はそんなにあなたに対して否定的なの?
それとも、自分の作品や思想に共感してくれない人は全て頭が悪い人たちって一括りで考えてるの?

とにかく監督自身がスクリーン越しに
「俺は不幸だ!不幸だ!」って叫んでる様に見える。
この人には世界がどんだけ悪意に満ちて見えてるんだろう。

「不幸」の描き方も良くない意味で露悪的というか、買春行為や脚を引きずってる人は不幸なんだ!って突然の巻き込み事故みたいな描き方が割と不快だった。


前述した映像に関しても、
確かに狂ってんのかお前ってくらいゴリゴリに自己陶酔した映像では無くなったけど、
予告編の時から感じてた通り、
インターステラーっぽいビジュアルとか、
クラウド・アトラスっぽい構成とか、
洋画に対するコンプレックスの塊みたいなビジュアルになってしまっていたのが残念だったなぁ。
たとえ馬鹿にされても独自の世界観を描き切って欲しかった。

前述の「大人なれ」と矛盾すると思うかもしれないけど微妙に違う。
作家として映像作りにおいては子供みたいに無邪気であることは決してマイナスではないしむしろプラスだと思うけど、
世の中を俯瞰で見て、それを作品のテーマとしてどう落とし込むかは別の話なので、そこは誤解なきよう。
晩年の大林宣彦なんかは、正に映像を作ることに対してはとにかく純粋だったけど、作品自体は歳を重ねた人ならではなテーマ性な人の典型だったし。


多分、例え世界が終わったとしても未来に希望を託したい的な終末モノを描きたかったんだと思うけど、なんか終盤のストーリーが取ってつけたような感じで、途中から「これは一体何を見せられてるんだ?」という感覚に陥ってしまった。
一つ一つの文脈がそれぞれで独立してしまっているから、一本道のストーリーのはずなのに脈略がない。

事故回避エンドについても「ひぐらしのなく頃に解」の鷹野三四の「もうひとつの結末」みたいな、
兎にも角にもそれどっかで見たよ…の繰り返しなんすよね。

でも、やたら台詞で全てを説明する割には変ところ説明不足だからいまいちオチに説得力がないという…
幼馴染の彼の言葉もよくわかんなかった。ハナ=母親、もしくはその家系の人全てと同一の存在ってこと?すげーわかりにくかった。
なんか見逃してたのかな…


色々と残念な作品ではあるんですが、
ただ前述の通りでやっぱり嫌いになりきれない作品ではあるんですよねー
これで引退なんて言わず、好きな様に作品作り続けたらいいのに。

ちなみに最後のハナの願い、
なんて言ったか聞き取れた人います?
とむ

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