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世界の終わりからのSQURのレビュー・感想・評価

世界の終わりから(2023年製作の映画)
4.0
ラスト数10分で完全にストーリーラインを放棄しており、バラバラの物語の断片から感覚的な部分を描き出すことが求められる過程は現代詩を読むことに似ている(家族の愛みたいな話が出てくると反射的にヒヤッとすると思うが、そういう人も安心して最後まで観て欲しい)。
かつていわゆるセカイ系的作品において、世界の命運が個人の狭い了見に委ねられることに対する批判がなされたが、あのとき本当に問うべきだったのは、そこまで個人に焦点を絞ろうとしてなお現実の私たち一人一人が内包する複雑性には遠く及んでいなかったのではないかということだった。今それを問い直す。世界を救うか、個人を救うかがまるで自明のように接近ー接近葛藤であるとして誰も問題視しなかった過去を。

物語における明確で端的な倫理的結論は得てして作品としての質に対する評価として有力なものであるとされる。
しかし、その筋が通っていること、一貫していることが評価されるということは、誰のために「正しいこと」とされてきたのだろうか?
明確な結論は、明確であるが故に全ての人のためのものではない。誰一人も取り落とさないという覚悟がこれからの、20年代の、フィクションには必要だろう。そのような覚悟が、「今までの」フィクションに対する評価基準からは未熟な作品だとされるような作品を導く。それは『進撃の巨人』や『BEASTARS』などの作品にも通じる。作者が、そして観客が、1人の人間である以上、唯一無二で完全無欠なエンドロールはありえない。これがゼロ年代の先の20年代的フィクションの有り様であり、ニューウェーブの始まりなのではないだろうか?

p.s.台詞の多い映画ではあるが、映像的な面白さがふんだんにあるため飽きずに見られた。色味や彩度などのこだわりが、黒沢清的でありながら新しい映像表現に繋がっていると思う。
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