masaaki

終わらない週末のmasaakiのネタバレレビュー・内容・結末

終わらない週末(2023年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

2023 12 10

しっかり観れて、それなりに正当な解釈できた気がする。

まず音楽から。オープニングシーンで使われる Joey Bada$$ はバチバチキマっていて、ニューヨークが舞台であることを念押し。借り家に向かう道中の車内では Kool & The Gang が流れる、渋い。アマンダが家を散策するシーンではなんとBackstreet!(「No Diggity」のグループです。アルバム『Another Level』良いので聴いてみてください)が流れ、アマンダとジョージが踊るシーンでは Next!この辺りの90s R&B嗜好は、エグゼクティブプロデューサーのオバマ夫婦のテイストな気もする。(本編の流れから明らかに浮いている)

大筋のテーマはアメリカという国家の孤立と崩壊。アメリカが次にする戦争は外交戦ではなく内戦ではという声をよく聞くが、それに至るまでの市井の混乱を描いたのが今作である。

黒人(ジョージ)がこんな豪華な家を持っているはずがない、あり得るとしたら使用人だろうと疑ってかかるアマンダの偏見を打ち消すには最初の奴隷の歴史から学び直す必要がある。クレイが運転中に一瞬ラジオが繋がるが、その時の周波数が1619 Hzであった。これはバージニア植民地に最初の奴隷が運び込まれてきた年である。

超音波攻撃は、2016~17年に実際にキューバで起こったとされるマイクロ波攻撃を参考にしているはず。クレイが道中で出会ったスペイン語を話す女性を、「言語が通じないから」諦めて見捨てたのも、人口増加しつづけるラテンコミュニティと白人とのコミュニケーションの断絶、あるいは保守政権による移民政策を匂わせる。

終盤でジョージが説明している通り、手っ取り早い内乱への流れは、まず隔離(isolation)、カオスの同時発生(synchronized chaos)、そしてクーデター。つまり、市井は誰が敵なのかもわからない状態で各々の政治的態度/行動に囚われ、対立してそのまま自滅していくということなので、この映画で主犯格が誰とか、何が起きているとかの説明がないまま終わるのは至極真っ当な作りである。

あからさまにテスラに喧嘩を売り、映画/ドラマをフィジカルで持っておくことの重要性をラストで説くなど、現代ポップカルチャーへの批評性もある。ただ気をつけれなければいけないのは、劇中で言及されるように、『Friends』に執着するのは「存在しないノスタルジー」にただ浸っている状態であることと、観終わればすぐに飽きて次の作品に目が移ってしまう加速主義に生きる我々の短絡性(『The Truman Show』のエンディング然り)だ。

映像の構図も、しっかりしているところはしっかりしている(あからさますぎて個人的には興醒めしたが)。サンドフォード夫婦とジョージ親子が玄関先で初対面した際、暖かくて明るい「内」にいる夫婦と、寒くて暗い「外」にいる親子の構図がくっきりと映される。しかし後半部、息子の治療を巡ってジョージがアマンダに助けを申し出たシーンでは、背景に巨大な白黒のモザイクアートが飾られ、これは「白」と「黒」の融和と解釈することもできる。

息子が終始気にかけていた Taylor とは誰なのか(まさかTaylor Swift?セレブリティ・カルチャーとの何かしらの接合?)、多数の鹿が表象するものは何なのかわからなかったので、わかった方がいれば教えてください。

シャマランというよりジョーダン・ピール的テイストを強く感じたが、極端な撮影技法が個人的に好みではなかったので、観終わった全体の印象はぼちぼちといったところ。裏表なく真面目で優しいイーサン・ホークを観たのは久々。ワンシーンずつ検証したくなる映画なので、大学の映画の授業の題材に向いている気がしました。
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