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アレックスとチュパのLCのレビュー・感想・評価

アレックスとチュパ(2023年製作の映画)
3.6
面白かった。

Chupacabra は、英語にすると Goat-sucker みたいな感じ。ヤギ(の血)を吸う者。
「実在しないけれど、それについての怖いお話は子どもの頃にはどこかしらで聞く」存在、つまり、日本の感覚でいう「妖怪」に近いもの。
目撃情報は結構色んなところに残っているんだけれど、地域によって語られる特徴に違いがあったりする。
本作では、四足歩行で、ちょっと犬のような特徴(遠吠えとか)を有していて、青灰色の姿をしている。これらはいずれも、米国南西部で語られる特徴だ。
羽根に関しては中南米で語られる特徴だけれど、「コウモリの羽」と描写されることが多いので、本作のチュパは様々な記録とはまた違った容姿をしていることになる。

それにしても、かわいいデザインだった。
生き物の血を根こそぎ吸い取ってしまう不気味な妖怪、という従来のイメージで見ると、主人公とオルゴールに合わせて旋律を真似たりして親近感を抱かせるし、お礼にネズミを持ってくるところはなんというか、猫っぽさまで感じる。
何となく、人と暮らしても問題なさそうな感じが、ほんのりする。羽根がなかったら「犬です」で切り抜けられそう。餌はネズミでよろしいのかな。
でも成長したら大きいな、やっぱりちょっと難しいかな。

おじいちゃんのギア(プロレスラーやルチャドールが試合で身に付ける衣装)を見て、ふと Atlantis Jr. を思い出した。現役のルチャドールであり、殆ど毎年、ある時期になると日本にプロレスをしに来る。
彼のギアも、青と白が特徴的。話してみるとかなり気さくで驚いた思い出。力強いファイトスタイルなのだが、おじいちゃんもスープレックスが自慢の技のようだったし、勝手に親近感を抱いてしまった。どちらも悪者を倒すヒーロー選手だしね。

そんなおじいちゃんが、孫に「感情をぶつけてこい」とルチャリブレ式の勝負をけしかける。
内に秘めた悲しみや消化しきれない怒りって、発散させ方がわからなかったり、そもそも発散して良い場が少ない。「八つ当たりするなよ」と拒否されるのがオチなことも多い。
でも、おじいちゃんは受け止めることができる。ルチャリブレも、相手の気持ちがこもった一撃を耐えて、また耐えて、何度でも耐えて、何度でも立ち上がる、そんな競技だ。
孫に吹っ飛ばされるのも、そんなおじいちゃんだからこそ、受けきることができる。
主人公も、自分の攻撃で綺麗に吹っ飛ぶおじいちゃんの姿を見たら、やっと胸につっかえていた何かが取れるような、そんな爽やかさを感じたかもしれない。派手に倒れるって、色々な意味や効果があるものなんだよね。
意味のひとつは、「お前の気持ちから逃げない」という姿勢を示すこと。
だからこそ、主人公はその後ベッドでぐったりするおじいちゃんを見ても、自分を責めることはしなかった。おじいちゃんの体調を心配することはしても、ルチャリブレなんてやっぱり嫌だ、という気持ちにはならなかった。
本気で受け止めてくれたから。
おじいちゃんの気持ちは、きちんと伝わったんだろうね。

Memo くんもかわいかったなあ。
この呼び名は、特にメキシコで使われると思うのだけれど、意味には2つの可能性がある。
ひとつは単純に「バカ」という意味。
もうひとつは、「 Guillermo (ギジェルモ)という名前の人に対して使う愛称」。
たぶん、どちらも意識しているんじゃないかと感じる。その上で、侮蔑ではなく愛を込めて呼んでいる。
マントを広げて「飛ぶっ!」と言うものの、見事に落ちる場面とか、確かにバカなんだけど、すごく好感を持ってしまう。
草まみれになりながら、「そうだ!羽根を動かせ!」と応援する姿を見ている私の気持ちが明るくなる、そんなバカ。
そして、チュパは立派に飛べるようになったんだなあと感じられる窓越しの景色がとても好き。
Memo くんが教えてくれたおかげだな!

お姉ちゃんはこれから、家族にとって要になっていくんだろうけれど、弟も、主人公もいるわけで、主人公の母親も、彼女の相談を親身に聞いてくれる人だろう。
これっきりじゃない、これからもっとたくさんの思い出を紡いでいく。大変なものも、楽しいものも。誰も孤独にしないだろうと、そう思えるところが素敵。
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