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マエストロ:その音楽と愛とのimoのレビュー・感想・評価

3.5
『TAR』からの“バーンスタイン”だったので、感慨深かった。
そしてこの作品『MAESTRO』を観る前と後では、バーンスタインが大好きな私にとって何かが変わるだろうということは予想できていた。少し怯えもあった。早く観たいという気持ちよりも、精神的コンディションに余裕がある時を選ばなくては…と慎重だった。(それにしても煙草が多すぎる!)

しかし実際に鑑賞してみて、さほどショックではなかった。むしろ妻・フェリシアの心理が痛いほど伝わってきて、セリフがある場面よりも無いシーンの方が(泣き、訴えるシーンより「微笑む瞳の静けさ」の方が)胸を打った。

この映画は“モノクロとカラーの対比”、そして登場人物の“こちらをじっと見つめるクローズアップ”が印象的だが、私は敢えて描かれていない沢山のシーンに意味があるような気がする。それこそがメッセージを発していると思う。そこに想像が及ぶかどうか…観ている私たちが試されているようにも感じる。

今後、何度か見返す映画だと思う。でもその間隔はじっくりと空けたい。
バーンスタインの音楽や成し遂げたことの素晴らしさは変わらない。むしろその尊敬に溺れ、実像を知らずに盲信し続けることの方が私は怖い。
今『親愛なるレニー』(吉原真里さん)も読んでいるし、映画『ウエスト・サイド・ストーリー』も新旧くりかえし視聴している。好きなのだから仕方ない。フェリシアもきっとそうだったのだろう。愛と命に葛藤したことだろう。才能ある女性だった。仕事も全うしたかったに違いない。彼女の存在を胸に生きられることは私にとってこの先とても大切になっていくことだろう。

私は「親切は愛に克つ」をモットーにしているのだが、フェリシアはまさにそれを体現した人生だったのだろう。(そうせざるを得ない時代でもあったろう)…“愛”を“芸術”に置き換えてもみた。親切は芸術に克つだろうか。私は日々自分に問いかけながら生きようと思う。

親切を犠牲にしてまで、私は何者かになりたくはない。
親切心を殺してまで何かを証明したり勝利したくない。
あらためて肝に銘じた映画だった。
imo

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