デッカード

マエストロ:その音楽と愛とのデッカードのレビュー・感想・評価

4.0
【訂正した感想】

※当初あげた感想は後で考えると完全に大切なことを見誤っていました。
訂正感想をあげます。
下に訂正前の感想も載せておきます。


レナードは音楽家として成功しながらも、自身の性的趣向のことは世間に隠しているようだった。
そのことは子どもが「ウワサ」を聞いて帰ってきたときのエピソードでそれとなく匂わされている。

そう考えると、実は妻のフェリシアだけがレナードがすべてをさらけ出せる唯一の人だったのではないだろうか?
フェリシアだけは、レナードのすべてを知り、そして彼を丸ごと受け入れてくれるただ一人の人だったのではないか?
この映画は、実はフェリシアというレナードにとって本当の意味でのソウルメイトの妻との想像もつかないほど深い愛の物語だったと思えてきた。
すべてを知るあまりフェリシアはレナードの行動に傷ついてしまうことがあり葛藤するのだが、レナードを愛する気持ちは最後まで変わることはなかった。
すべてに絶望していく最愛の妻を見つめ続けたレナードが悲しすぎる。

はじめに書いた感想でソウルメイトというキーワードを使いながら、自分で何か違和感を感じる感想になっていた。

実はこの映画は偉大な音楽家と彼のすべてを愛した女性との深い愛の物語だったと気づいた。




【訂正前の感想】

※自分で違和感のあった感想ですが、記録として残しておきます。


現代音楽の巨星・レナード・バーンスタインと妻フェリシアの愛と葛藤を描く。

映画ファンとしては『ウエスト・サイド物語』の作曲家としての印象が強いレナード・バーンスタインゆえ、クラシックのみならずポピュラーと言っていい分野の曲まで幅広い作品を世に送り出した20世紀現代音楽の巨星であることは詳しくはないが知っていた。
映画全編の曲は当然ながらバーンスタインの作品で、映画としてそれを浴び続けるという至高の体験は特筆すべき。

しかし、全く予備知識なしで鑑賞したので映画としてレナード・バーンスタインへのアプローチの仕方に戸惑いも感じてしまった。
レナードがホモセクシャルだったことは有名だったようで、そこを今さら引っかき回すのかと思いきや、フェリシアという最愛の妻との愛の物語としてきれいにまとめ上げているのは、人によって評価が真っ二つに分かれるところのように思えた。

フェリシアという最愛の妻がいながら同性への強い性衝動が抑えられないレナードは、そのことについてフェリシアにも大っぴらでフェリシアの前でも男性へのアプローチをするなどある意味節操がない。
逆に言えば、そんな音楽界の巨匠である夫のどうにもならない性衝動に妻のフェリシアが複雑な感情で葛藤するのがこの映画だと言っていいと思う。

レナードの性衝動の対象が男性なので、同性愛や性趣向への理解が求められる映画を観る習慣で先にレナードに対しての理解や同情が生まれてきそうになるのだが、よくよく考えれば相手が男性だろうと女性だろうとやはり「浮気は浮気」で、それをあからさまに見せられるフェリシアの葛藤は想像以上の苦しさだったと思えてくる。
レナードの男性への性衝動はあっけらかんとしていて(それが悪いことではないのだが)、いわゆるゲイを描いた映画から滲み出る苦悩など感じさせないゆえに、ひたすらフェリシアの深い愛ゆえの葛藤が描かれているところには逆にレナードの理不尽さを感じてしまった。
必ずしも同性愛を扱った映画が苦悩と葛藤に満ちる必要はないのだが、明らかに妻を苦しめていながら自分は大らかなレナードのあり方には、創作者としての精神に根差す自由な部分はあったとしても凡人としてちょっと共感はできなかった。

ただ、確かに男女という概念を超えた夫婦の愛の姿があるのは事実で、そんなことを書いたら叱られるかもしれないが、男女というよりソウルメイトのような、お互いがなくてはならない存在になることは意外と当たり前にある感覚のようにも思う。
レナードが最後に見せるフェリシアへの深い愛は、夫婦のひとつのあり方として現実的だと思える。
ここを美談と見るか、贖罪と見るかも意見の分かれるところかもしれない。
結局はレナードがフェリシアの愛に甘えていた、と言ってしまえばそれまでのような気もしてくる。

レナード・バーンスタインというあまりにも音楽界における大きな存在を、妻との関係性で俗人的に描いた作品としては成功していると思うし、全編でバーンスタインの音楽を堪能できる映画体験は貴重なのは確か。
当然性衝動を否定はできないのだが、妻という最も大切なソウルメイトへの気遣いや思いやりは人間として忘れてはいけないと思ってしまった。
巨匠の業績やきれいごとの愛の映画としてとらえるというより、自分自身の夫婦のあり方として当たり前になりすぎてしまって感謝や思いやり、配慮を忘れていないかを顧みさせてくれるきっかけになる映画だと思えば納得できた。

感想が夫婦関係の内容ばかりに終始してしまったが、主演・監督のブラッドリー・クーパーのバーンスタインが指揮をする演技にはただならぬ迫力があった。
序盤から繰り広げられるすべてのオーケストラ・シーンには引き込まれるものがあった。
『プロミシング・ヤング・ウーマン』に続き男性に翻弄されるキャリー・マリガンの演技には共感。
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