てっぺい

沈黙の艦隊のてっぺいのレビュー・感想・評価

沈黙の艦隊(2023年製作の映画)
3.5
【サイレント映画】
音で戦況をはかる潜水艦映画は、見ているこちらも沈黙し耳をそばだててしまう不思議な没入感。Amazonが初めて資金投入、今後日本漫画の映画化の流れができうる重要な一本。

◆トリビア
○ 撮影に際しては日本で初めて海上自衛隊潜水艦部隊の撮影協力を得ており、実際の海上自衛隊潜水艦が使用されている。(https://ja.m.wikipedia.org/wiki/沈黙の艦隊)
大沢たかおが防衛省と当時コネクションがあった事から、それが実現した。(2023年9月24日「ボクらの時代」)
映画化にあたって、原作者のかわぐち氏に企画プレゼンした際も、大沢自ら出向いたという。(https://www.cinematoday.jp/news/N0139201)
○ 海自の乗組員は「海に潜ったら艦長に命を預けている」と思っていて、その表情からいろいろなことを汲み取るという。大沢たかおは、海江田として常に後ろに手を組む事で、「絶対に自分は動じてはいけない」という心理的な意味合いを演出した。(https://book.asahi.com/article/15003249)
原作では海江田は勇ましく正しい雰囲気の人物として描かれているが、核兵器を積んだ潜水艦を乗っ取って戦争をもくろむ行為は反逆であることから、大沢は役を美化することなく、あえて大きく変えて調整をした。(https://precious.jp/articles/-/43451)
○大沢たかおは役作りのため半年間1キロ水泳を行なった結果、背中に炎症を起こした。(2023年9月24日「ボクらの時代」)
〇監督は、大沢たかおにあまり動かないよう演出。艦内の撮影期間の1カ月半で7歩くらいしか歩いていない。(https://www.sponichi.co.jp/entertainment/news/2023/09/23/kiji/20230923s00041000326000c.html)
〇潜水艦の乗務員はアイスが一つの楽しみという話から、深町がアイスを食べるシーンをファニーに描きたかったが、監督としてはアイスを食べる玉木がかっこよすぎたことが唯一の誤算だった笑。(https://screenonline.jp/_ct/17657908/p3)
○水川あさみ演じた速水は原作では男性。実際、今の艦隊員は女性が増えているそうで、「艦長の右腕で女性が活躍することの覚悟や葛藤を自分の中で感じることで、女性にも観ていただけるような目線を作れればいいなと演じていました」と述べる。原作者は「原作の連載当時から30年経って、この映画を観たら女性が活躍している。これは現代の物語だと思いました」と語る。(https://amp.natalie.mu/comic/news/538146)
〇中村倫也演じる入江は映画オリジナルのキャラクター。海江田と深町のわだかまりの原因であり、感情的対立を作る存在として生まれたという。(https://screenonline.jp/_ct/17657908/p4)
〇原作者のかわぐち氏は漫画を描くとき『絶対に実写化できないものを描こう』と思っていたと告白。「オファーをいただいたときはなんと無謀なんだと思ったんです。この作品はテーマとスケールにおいて、実写化できない自信があった」(https://www.cinematoday.jp/news/N0134619)
○ 本作はAmazon.com傘下の映画スタジオであるAmazonスタジオが製作。同スタジオが日本映画の製作に携わるのは本作品が初めて。(https://ja.m.wikipedia.org/wiki/沈黙の艦隊)
大沢たかお曰く、Amazonスタジオが賛同してくれなければ、予算的に本作を製作するのは不可能だったという。(https://book.asahi.com/article/15003249)
本作の興収に応じて、続編映画やAmazonプライムのみでの続編配信もありうる。(https://eiga.com/extra/hosono/219/)
〇Adoが歌う本作の主題歌「Dignity」は、B'zが楽曲提供、稲葉浩志が作詞、松本孝弘が作曲をてがけた。B'zが日本のアーティストに楽曲提供するのは初めて。(https://www.thefirsttimes.jp/news/0000305707/)
〇本作の上映会が国会で行われた。超党派の「映画議員連盟」が開催、大沢たかおも出席し、国会議員や関係者らが鑑賞。大沢は「(映画は)全部完結するわけではありません。これが最初の序章になっています。海江田四郎と一緒に旅に出る〝旅たちの章〟だと思っています」と語った。(https://www.tokyo-sports.co.jp/articles/-/277525)

◆概要
【原作】
かわぐちかいじ『沈黙の艦隊』(講談社『モーニング』1988〜96年連載・累計発行部数3200万部(2023年1月時点))
【製作】
大沢たかおほか
【脚本】
高井光
【監督】
「ハケンアニメ!」吉野耕平
【出演】
大沢たかお、玉木宏、上戸彩、ユースケ・サンタマリア、中村倫也、中村蒼、水川あさみ、手塚とおる、酒向芳、笹野高史、橋爪功、夏川結衣、江口洋介
【主題歌】
Ado「DIGNITY」(楽曲提供:B'z)
【公開】2023年9月29日
【上映時間】113分

◆ストーリー
日本近海で、海上自衛隊の潜水艦がアメリカの原子力潜水艦に衝突して沈没する事故が発生。全乗員76名が死亡したとの報道に衝撃が走るが、実は全員が生存しており、衝突事故は日米が極秘裏に建造した日本初の高性能原子力潜水艦「シーバット」に彼らを乗務させるための偽装工作だった。しかし艦長の海江田四郎はシーバットに核ミサイルを積み、アメリカの指揮下を離れて深海へと消えてしまう。海江田をテロリストと認定し撃沈を図るアメリカと、アメリカより先に捕獲するべく追う海自のディーゼル艦「たつなみ」。その艦長である深町洋は、海江田に対し並々ならぬ感情を抱いていた。


◆以下ネタバレ


◆海江田と深町
海の俯瞰から、潜水艦の内部へ、そして海江田へと続く冒頭。世界地図をバックに“人がなぜ戦い続けるのか”を説く彼の姿から、海深いある一室から、世界を狙う海江田という人物をこの物語が描く事が表現されていた。一方で深町はアイスを頬張りながら艦内を動く姿から始まる、“静”の海江田と“動”の深町という対照的な演出。艦内の光もシーバット内は寒色、たつなみは暖色が多用されていた。通して見ても、入江という映画オリジナルのキャラクターは、海江田と深町のわだかまりの起点であり、その事で2人の対立構造がより輪郭化。ある意味本作は、暴走する海江田を深町の目線で見る物語であり、“沈めてでも止めてやる”が共感できる、非常に沁みる一言になっていた。

◆迫力
潜水艦が浮上する俯瞰のシーンや、艦外に付けられたカメラの映像が実際の海自の潜水艦を使って撮影されたものだそう。なるほど少し長めに使われていたし、その荘厳さや海水のしぶき、海中の水疱のリアルさにとても迫力があった。さらに、一室から外の音を聞き分け状況を把握し、戦術を進めていく内容そのものがそもそも映画館向き。見ているこちらもある一室で動く事なく音と映像で状況を把握しているわけで、艦長の指示に艦が浮き沈み、戦況が変わっていく様は、まるで自分も艦に乗船しているような感覚にも。そんな不思議な没入感のある作品でもあった。

◆続編
原作の醍醐味の一つだと自分が思う艦と艦のバトル、米軍6艦せん滅やレッド・スコーピオンのくだりの端折り方は絶妙。海江田がシンプルにテロリストでしかなくなっていたのは少し残念。原作で敵艦から白鯨と呼ばれた海江田を、ラストで白鯨の目と海江田の目で繋いで見せた演出もニクイ。「キングダム」の撮影移動中に大沢と松重プロデューサーとの間で企画されたという本作は、まさにキングダムのようにシリーズ化が見えるエンディング。Amazonが製作に入った事で、本作が成功すれば映画として、そうでなければ配信での続編(日米会談や安保理あたりの展開か)が期待される。(ちなみにユースケ・サンタマリアは会見でシリーズ5作とスピンオフを宣言したそう笑)もっと言えば、本作が成功すれば他の日本漫画を豊富な外資の資金力で映画化する流れができうる重要な作品。その意味でも、続編への願いも込めて、この作品がおおいに注目され成功につながる事を期待したい。

◆関連作品
〇「空母いぶき」('19)
かわぐちかいじ原作漫画の実写化作品。敵艦隊と遭遇した海上自衛隊の緊迫感と政治が複雑に絡み合う。プライムビデオ配信中。
〇「沈黙の艦隊」
原作漫画全32巻。各電子書籍で購読可(2023年10月5日で販売終了予定)。

◆評価(2023年9月29日時点)
Filmarks:★×4.2
Yahoo!検索:★×3.6
映画.com:★×4.7

引用元
https://eiga.com/movie/98836/
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/沈黙の艦隊
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