ぶみ

沈黙の艦隊のぶみのレビュー・感想・評価

沈黙の艦隊(2023年製作の映画)
3.0
光は、海の底より浮上する。

かわぐちかいじによる同名漫画を、吉野耕平監督、大沢たかお主演により映像化したドラマ。
日米政府が極秘に建造した原子力潜水艦「シーバット」の艦長が反乱を起こし、独立戦闘国家「やまと」と宣言したことから、事態と対峙する人々の姿を描く。
基本殆ど漫画を読まない私は、連載当時国会で話題になっていた記憶程度の状態での鑑賞。
主人公となる反乱を起こした艦長・海江田を大沢、シーバットの乗員を中村蒼、 松岡広大、前原滉、アレクス・ポーノヴィッチ、シーバットを追いかける海上自衛隊潜水艦「たつなみ」の艦長・深町を玉木宏、たつなみの乗員を水川あさみ、ユースケ・サンタマリア、日本政府を笹野高史、江口洋介、酒向芳、夏川結衣、岡本多緒、橋爪功、手塚とおるが演じているほか、上戸彩、中村倫也等が登場。
物語は、日本の近海で海上自衛隊の潜水艦「やまなみ」がアメリカの原子力潜水艦と衝突し、沈没するという衝撃的なシーンでスタート、この時点で、その状況を聞き取るユースケ・サンタマリア演じるソナーマンが登場するのは、潜水艦ものらしい展開で、テンションが上がった次第。
以降、その事故が偽装工作であり、海江田が独立国家を宣言する様が描かれていくのだが、日本のAmazonスタジオが初めて劇場作品に取り組んだとされる本作品は、邦画にありがちなCGやVFXのチープさが殆ど見られないため、まさに面目躍如であり流石の一言。
また、対峙する二人の艦長を演じた大沢、玉木の演技も悪くなく、それぞれの個性が遺憾なく発揮されているもの。
そして、全32巻もある原作を映画化するのは、土台無理であり、どこか一定のエピソードをフォーカスするか、それとも、端折りに端折って無理やりエンディングまで描くかの二択となるのだが、本作品では前者をチョイス。
そのため、どうしても尻切れトンボ感は否めないのだが、本作品が提起する問題については伝わってきたため、私的には悪くないと感じた次第。
ただ、そうは言っても、人物描写が希薄であったり、結局のところ、海江田の行動原理がよくわからなかったりと、本作品の内容を2時間以内で示すのには、やはり無理があったのではなかろうか。
加えて、笹野演じる内閣総理大臣が、政治家としてはあまりにも弱々しくてカリスマ性がなかったり、影の総理とされる内閣官房参与を演じた橋爪の台詞が、殆ど聞き取れなかったり、はたまたアメリカ政府のセットも含めた重厚感のなさといい、潜水艦パートに対して地上パートのやっつけ感の半端なさが目についたのは、非常に残念。
潜水艦もの特有の閉塞感はしっかり再現されており、その裏に蠢く政治的思惑や、何も知らない、いや知らされない市井の人々の描き方は悪くないものの、潜水艦パートに力を入れすぎたせいか、それ以外の部分が脚本、演出とも弱くなってしまっているとともに、イメージビジュアルの江口を、ずっと北村一輝と勘違いしていたのが恥ずかしいのと、続編があるとするならば、配信オンリーにならないことを祈るばかりの一作。

綺麗事では国は守れません。
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