YAJ

沈黙の艦隊のYAJのネタバレレビュー・内容・結末

沈黙の艦隊(2023年製作の映画)
3.0

このレビューはネタバレを含みます

【壮大な予告編】

 原作は全32巻、8年にも及ぶ長編作品なだけに、映画の2時間の尺にはどうにも収まらないはず。そこは予想して鑑賞。続編が想定されているのだろう、長大な予告編を見せられたところで終わってしまった(苦笑)

 評価は、可もなく不可もなく、か。
 原作のテイストを改悪することなく、2時間に収めるために無理に起承転結を詰め込んでない点は良かった。ただ、原作を知らない鑑賞者にはどう映ったかは心配。単品としてはイマイチ盛り上がりに欠ける。
 活躍の場のないままの贅沢な配役も、このままじゃあ飼い殺しだ。ここは、是非、続編に、乞うご期待!と願いたいところ。

 Amazonスタジオが初めて製作した“日本の劇場用映画”との触れ込み。どれくらい資金を投入する腹積もりがあるのやら? ドゥニ・ヴィルヌーヴの『DUNE』のように、最後に「part one」と出しても良かったのにね。なんなら、続きは、オリジナルドラマで配信とかもあり得る??(← 最後までやり切るなら、意外と、そのほうが良い気もする。)
 潜水艦なだけに、劇場公開は本作のみ、続きはネットの中に深く潜航していく!? 



(ネタバレ含む)



 ほとんど序章とも言える部分のみ。原作なら3巻あたりまで。
 その中で、端折った部分もあり、盛り込んだ部分もありで、微妙な改編も原作テイストを損なわない程度だったので、まぁまぁ良かったかな。
「たつなみ」の速水副長が女性(水川あさみ)なのは、なるほどね。原作でも「こいつ、女性?」という優男として描かれてた速水健次。時代を現代に移してのことだろうから、女性クルーの乗艦もあり得る設定だと思う。
 防衛大臣曽根崎も女性(夏川結衣)だ。女性防衛大臣というイメージは、百合子ちゃんの功績?!

 原作での序盤には、まだ確立されてなかった(はっきり描かれてなかった)海江田四郎のキャラ(デッサンもブレブレだった・苦笑)。映像作品では昨今カリスマ性を高めてきている大沢たかおが演じることで、すでにキャラ立ちしてる点は良かった。原作を連載で読んでいた頃は、むしろ深町が主人公のような描かれ方だったからね(特に序盤)。
 その「たつなみ」艦長深町洋が玉木宏ってのは、ちょっとどうなの?と思ったけど、まぁ頑張ってるかな。できれば、エラが張って武骨な筋肉質な役者がハマるのだけど、近頃の役者さんはみんな線が細いというかシュっとしてるよね。

 本作中、まったくもって描き方が足りなかった日本政府側の役者さんは、続編での活躍に期待かな。
 切れ者の政府関係者に、江口洋介が起用されている。国政の黒幕の御曹司という設定は原作と同じ。ただ、今後、天津航一郎(外務次官)の新たなキャスティングがないなら、海原渉と天津を足した人物なのかもしれない。「シン」シリーズの竹野内豊的存在として、やり手のイメージを出していけるか?「やまと」と共闘しながらアメリカ政府や世界との丁々発止のやりとりを楽しみにしたい。

 とにかく、原作しかり、得体のしれない海江田に振り回されることで、周りが知恵を絞り、より良い未来、国家の在り方、国際協調の理想を求めて試行錯誤を繰り返し覚醒していくお話。海江田よりも、周りの役者さんが、そのキャラの成長を見せて行かなきゃならない難しい役回りだと思う。主役が不動のまま、周りの成長が描かれる稀有な作品になると思う。成功すれば、実に面白いものになるはずだ。
 海江田の仕掛ける一挙手一投足に、鑑賞者側も都度都度考えさせられる、そんな作品として、原作テイストを大切に、今後も展開していってもらいたいもの。

 今後、メディアや世論も巻き込んでいくし、保険業界が参入してきたあたりは正直話についていけなかった原作連載時。最後は、国連にまで舞台はグレードアップしていくのだけど、終末に向けては、現代風の味付けで改編してほしい。

「半径五キロの海域に世界の現実を詰め込んだ、あなた方は現実を見つめなければならい」

 30年前の原作にもあった、この海江田による挑発のひと言は、今もってゾっとさせられる。
核の存在をチラつかせながら恫喝と懐柔の交渉と、互いに決定打に欠ける小競り合いしか許されない描写は、そのまま現代にも通じるという恐ろしさ。
 だからこそ、現代の世界情勢をストーリ―に盛り込むことは不可能ではないと思う。

 もはや、無力が囁かれて久しい国連だし、原作の終わり方にはちょっと納得しきれないところがあったので、映画ならではの味付けも期待したい。当時と比べ、世界情勢も大きく変わっている(原作の初っ端、接触事故を起こすのは「ソ連」の原潜だったしなあ)。現代風の壮大な改編を願う!
 
でも、「ヤマト、発進!」と、宇宙に飛び立つのはやめてね。 ま、それはしないだろうけど(笑)
YAJ

YAJ