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私たちの声のchiakihayashiのネタバレレビュー・内容・結末

私たちの声(2022年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

 「映画、芸術、メディアを通して女性を勇気づける」をスローガンに掲げる非営利映画製作会社「We Do It Together(WDIT)」の企画により、各国で活躍する女性監督と女性が集結、女性をヒロインにした7つの物語が編まれた。

 第1編「ペプシとキム」(タラジ・P・ヘンソン監督)はUSAの刑務所が舞台。ヒロインのドラッグ中毒のキム(ペプシというのは解離性障害をもつキムのもう一人の人格の名前)を演じているのはジェニファー・ハドソン!『ドリーム・ガールズ』(06)でアカデミー賞助演女優賞、近年ではアレサ・フランクリンの伝記的映画『リスペクト』(21年★リーズル・トミー監督)で主演。
 運よく更正プログラムに参加したキムが、この世の中への不信と怒りと呪詛に満ちたペプシに遂にサヨナラを告げるまでを描く。最後に、この物語のモデルとなったタイム・フォー・チェンジ基金を創設して活躍するキム・カーター本人が登場するシーンは感動的なビックリ。

 第2編『無限の思いやり』(キャサリン・ハードウィック監督)は2020年、コロナ禍のロックダウン時、カリフォルニア州がホテルを借り上げて路上生活者の住まいとしたプロジェクトを舞台に、女性医師と看護師のペアがある日、誰もが手を焼いていたひとりの若いホームレス女性をケアするひとコマにスポットをあてる。
 これも、ロサンゼルスの治安も最悪の地域で〝反逆医師〟として、17年間精神疾患や薬物依存症の治療に従事してきた女性が監督に語ってくれた話がもとになっていて、最後に本人が登場。彼女を演じたのはマーシャ・ゲイ・ハーデン。アカデミー賞助演女優賞の受賞者で、ちょっぴり強面の女性を演じることが多い女優さんだけれど、本作での滲み出る人間性はさすが!

 第5編『声なきサイン』(マリア・ソーレ・トニャッツィ監督)の主演はイタリアの映画賞では常連女優賞受賞者のマルゲリータ・ブイ。大人の女性感覚が忘れがたい『はじまりは5つ星ホテルから』(2014年)の主演・監督コンビによる短編。
 出勤途上のクルマの中で、「ビデオを一緒に見る約束よ」と娘にスマホで責められて、「代わりに夜勤に入ってくれる人を見つけるから」とヒロインが焦っているシーンから始まる。彼女はかなり大きな施設で働く獣医。なんとか娘と約束した11時には戻れるかという瀬戸際で、怪我をした犬を抱いて受付に来た女性を放っておけなくなってしまう。彼女はどこか脅えた様子で、付き添ってきた男性の挙動も不審だ。「犬が自分でこんなにザックリと切り傷をつくるはずはないわね」とつぶやくと、隙を見て袖をまくり上げた女性の腕には青アザがいくつも。機転を利かせてヒロインが警察に通報するというこの出来事も実話に基づく。

 日本からは呉美保監督、杏の主演で、シングルマザーの日常を題材にした『私の一週間』。食パンをトースターに放り込んで朝食の用意、同時に洗濯機を回し、掃除機をかけ、娘を小学校に送り出し、息子を自転車で保育園に送り届け、女たちで経営するお弁当屋に出勤するまでがまず、丁寧にかつ手際よく描かれる。
 やはり2人の子どもがいて、出産してからは1本も長編映画を撮っていないという監督は「どれだけ〝名もなき家事〟を重ねられるかが、チャレンジだった気がします」と言い、「当たり前のような日常を描き、表現することはとても難しいことだと思いました」という杏は「例えば何気なく自転車を漕ぐ動作も、もう何十回も何百回も通った道であるという気持ちを持ち続けて演じるのは、難しかった」と語る。その心意気やよし!と素直に言えないのは何故なんだろ?

 「夫は仕事でなかなか帰ってこず、妻が仕事をやりながら育児も家事もやっているという表現では暗に男性を責めることになってしまうと考えました。その点を改善していくためには、責任の擦り付け合いではなく、それぞれが称え合う関係になるべきだと」という監督の言葉に全面的に肯けない気がするからか? ヒロインの一週間は、子どもたちが忙しい母親のことを実は懸命に思い遣っていたという結末を迎え、それはそれで微笑ましい人生のひとコマなのだけれども。
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