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コット、はじまりの夏のエスのレビュー・感想・評価

コット、はじまりの夏(2022年製作の映画)
4.7
”沈黙は悪くない。沢山の人が沈黙の機会を逃し、多くのものを失ってきた。”

沈黙がもたらす気まずさを恐れるあまり、会話自体に苦手意識を抱いてきた自分は、この言葉をきいた瞬間、電撃が走った様な気がした。今まで知らなかった価値観。誰も教えてくれなかった。

誰かから気にかけてもらえてる、大切にしてもらえてるということに気付き、居場所があるんだということを認識することはこの世にとって何よりも美しい瞬間だと思うし、それによって生まれる喜びや安堵はどんな不安にも勝ると思う。

劣悪な家庭環境や居心地の悪い学校の中だけが全てで、最初は寡黙で何に対してもビクビクだったコットが、ある日突然その温かさに触れ、段々世界を知り、自ら関わっていく。そして自ら求め歩み出せるようになったというこの成長物語を、静かだけど強く心を揺さぶるような傑作に作り上げたことが素晴らしいなと思う。

日差しがたっぷり降り注ぐアイルランドの大自然が囲むお家に暮らす親戚のアイリンとショーンの元、温かいお風呂やふかふかのお布団、ジャム作りや農仕事のお手伝い、仲直りのクッキー等、夏の間という短期間ながらも惜しみないコットへの愛情が、やさしく真のコットを引き出していく。僅かな表情の移り変わりを丁寧に描いていたのもとても良かった。

そして切なすぎるエンディング。ここ最近観た映画の中でも一番ピークで終えたなぁという印象。涙が溢れてしばらく止まらなかったし、鑑賞数時間後の今も目閉じて思い出しただけで胸が締め付けられて目頭が熱くなってくる。ポスターを直視するのが難しい程。みれて本当に良かったです。どうか幸せでいて欲しい。
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