CINEMOREさんに招待頂き試写会にて鑑賞しました
恋心を抱き合っていた12歳の少女と少年が、少女の海外移住をきっかけに離れ離れになり、12年後オンライン上で再会を果たすも すれ違い、それから12年後 かつての少女とその夫が住むニューヨークで2度目の再会をする映画です。
物語の鍵は”인연”、簡単に言えば(輪廻転生や運命的な意味を含んだ)縁という意味です。日本語でピッタリ当てはまる言葉はありませんが、時間や空間を超えた親しみやつながりの感覚、宇宙的な結びつきを感じる不思議な縁、という考え方は日本(アジア)で生きていれば、うまく言葉にできなくとも、何故か心で理解できてしまうのではないでしょうか。
《感想》
「Past Lives(前世)」というタイトルから 少しファンタジー要素を含んだドラマチックな話だと想像していたけど全く違った。むしろ、リアルで現実的なロマンスを見た感じ。もちろん叙情的な雰囲気とロマンはあるけれど、どちらも現実を超えられず。愛の力で全てを克服できる作品が多いけど、それがどれだけ難しいことかしっかりと描くことで、今作が伝える 縁 の意味をより深く理解できたように思う。
《トークショー》
鑑賞直後の率直な感想は「これがアカデミーが絶賛したスタイルなのか、綺麗だけど平凡な初恋の映画」でした。テーマである”縁”という意識は日本(アジア)では日常にあり触れている為か特別には感じませんでした。しかし、トークショーでLiLiCoさんたちのお話からヒントをもらい多くを理解していく中で、この映画は全く色を変えました。
まず、どうしてアカデミー賞ノミネートなど海外から絶賛されているのか。
それは、時間や空間を超えた親しみやつながりの感覚、宇宙的な結びつきを感じる不思議な”縁”という東洋的な観念の解釈が アジア以外の国からみると神秘的に感じられることが大きく影響している。
それを知った時、それほど特別に思えなかった自分の感覚と真逆の感覚を持つ人がいる面白さを感じました。
また、異民族と白人男性が物語に登場する場合、今までは 白人の方たちの中で窮屈に感じるアジア人、の様な描かれ方をしていたが、今回疎外感を感じているのは白人男性の方、という新しさから 今作は確実に一歩先をゆく作品になったという話も共感しました。異民族(特に最近音楽や映画など芸術面でも大変勢いのある韓国人)に対する世界の関心が大きくなっているんだな〜とも感じました。
《アーサーについて》
彼の少ない台詞や表情の一つひとつに、東洋的な”緑”という観念の解釈がいかに複雑で不明確なものか客観的に知ることができました。またそんな曖昧な観念が持つ力が、客観的に見ると底なしの恐ろしさを齎すことも知り、不思議な感覚になりました。
《Past Lives》
鑑賞前にはファンタジー要素を示唆してるようにしか感じられなかったタイトルについても、作中でしっかり語られます。たとえ現世で傍にない縁だったとしても、自分たちの知らない全く別の世界で今の気持ちは残るだろう。このタイトルは、別れを言いながらも笑顔になれるような感情を 繊細によく表現していたんだな、と心に沁みました。
《作中に散りばめられた音楽やあれこれ》
ネタバレになってしまうので具体的な名前は伏せますが、作中には彼らの関係や感情の理解を深めるものが私が気づいただけでもいくつかあり、細やかに作り込まれた作品だと感じました。