やべべっち

パスト ライブス/再会のやべべっちのレビュー・感想・評価

パスト ライブス/再会(2023年製作の映画)
3.9
後からジワジワと来る映画。監督のインタビューを読んだりDizさんの書評を読んでちょっとこの映画に対する映画の評価が変わった。

Xをやっていると「過去の事なんてゴミ。前向きに生きなきゃ」という5種体癖よりの考えがこの世の中多いように思える。そういった意味ではこの映画はひたすら「後ろ向き」な映画だ。

小学生高学年だった頃に両思いだった初恋の人。成人してお互いの思いがある事が分かりつつも韓国とアメリカの遠距離により離れ離れに。30を超えて落ち着いた頃にようやく束の間の再会をはたすというだけのお話。

身体の関係もなし、キスもなし、付き合ってもいない。そんな良い大人が旦那そっちのけで「私達前世でどうだったのかな」と話す様は人によってはキモく移るはずだ。

「過去は変えられない。変えられるのは未来だけ」と人は言う。だが本当にそうだろうか。
ノラとアーサーの出会いもノラとヘソンの出会いも変えられない。ノラはヘソンと再会する事で自分は韓国人でその精神をベースに持ちながらヘソンの持つ韓国人感性とは違う事を感じる。これももはや変えられない事だ。

彼らが変えたのは過去だった。

子供の頃別れたままであったなら変わらなかった過去の意味合いが再会によって変わった。あの時こうしていたらという後悔はくだらないという人もいるかもしれない。けれどその後悔はこんなにも切なく美しい。

これは紛れもなく愛の物語だ。ヘソンとノラとヘソンとアーサーのイニョン(縁)だ。何年付き合ったかや何回身体を求め合ったかは関係なくどれだけ自分の感情が揺さぶられたかどれだけ他人の心に残るかがその人の人生が決まる。束の間の再会の時間は過ぎ去った数十年とは違い永遠に感じられる時間だろう。