たくみ

パスト ライブス/再会のたくみのレビュー・感想・評価

パスト ライブス/再会(2023年製作の映画)
4.0
【終われなかった恋を終わられる作品】
上品にゆっくり描かれていて好きでした。
12歳→24歳→36歳という12年感覚で2人の恋模様を描く作品です。
人間は取捨選択しつつ人生を歩んでいるので正解とかはないのだと思います。
今作の登場人物たちも誰一人として間違った選択はしていない。
だからこそ実るだけが綺麗な恋じゃないという事を見事に描いた作品だと感じました。

とにかくラストのお見送りシーンが良かった。
正直そこまではあんまり乗れていない自分がいまして、どういう風に完結させるんだ?と思って観ていたらまさかの形で終わったので驚きました。
タクシー乗車前に2人とも何か言いたげだが言い出せずそのまま別れてしまう、までは正攻法だと思うのですが、ナヨンが号泣するのは予想外でした。
それまでの描かれ方的にナヨンはヘソンとの恋に区切りをつけていて、諭している側だと思っていました。
号泣するカットが映された瞬間、なるほど、2人にとってまだ未練のある恋だったのだと気付かされました。
それが24年の時を経てやっと終わったのだと思うと苦しくなりました。

子供時代の別れのシーンがフラッシュバック的に挿し込まれますが、この時は「さようなら」だった。
それが24年の時を経て、再開し、そして現世ではもう叶わない恋となり、最後の会話が「来世でまた会おう」となる。
切なすぎるけど、とても良いシーンだなと感じました。

この時、夫であるアーサーが肩を抱えてくれる。
大恋愛は終わったが、ナヨンはこれからも愛する人アーサーと”イマ”を生きていくのだなと思うと、人生は複雑で難しいなと感じました。
選択の順番が変わるだけで未来が大きく変わってしまう。
だからこそ生きていて楽しいのかもしれないけど、同時に切ないなと感じました。

2人の恋愛を補完するように、撮影が異様に上手くてこれまた驚きました。
扉とか窓が効果的に使われている気がしました。
最初の方は期待感の表れとしてナヨンの家の窓だったり、勉強合宿的なやつの家の窓が開いていて光や風が入ってきたりする。
後半は逆に扉を閉める動作が多くなり、アーサーとナヨン/ヘソンが扉を挟んで別れる形となり、アーサーの落ち着かなさが表現されている気がしました。
最後も夫婦で家の扉を閉めるシーンで終わっています。
この扉が閉まる事でアーサー/ナヨンとヘソンという構図になり、日常に戻っていく。
監督まだ36歳とかですよ、玄人感が半端じゃないです。しかもデビュー作。。。恐るべし。。。

あとは英語韓国語を織り交ぜる事で無意識的に壁を作り、2人だけの空間を作り上げる。
そうする事でナヨンと会話している側は楽しそうに映るが、もう片方は疎外感を観ていて感じる。
こういう映画的文法も自然に使われていて上手いなと感じました。

こういう映画があると終わっていった恋にも意味があるのかもしれないと思えますね。
会いたい時に会うって大事ですね。

【その他メモ・独り言】
・プロットが監督の人生とほぼ同じ。(監督の父親も映画監督)
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