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パスト ライブス/再会のひでGのレビュー・感想・評価

パスト ライブス/再会(2023年製作の映画)
4.3
ダイナミックな歴史や鋭くえぐる社会性や大スペクタルのスリリングさはないですが、こーゆー映画をチョイスして、感動できた日には、映画ファンで良かったなあと心から思います。

アカデミー作品賞・脚本賞にノミネート!の信頼情報はあったものの、韓国の男女の再会という地味目なお話にどうなるのかなとやや不安(飽きちゃうとか、年度始めの疲れで🥱になるとか)もあったのですが、
本当に観て良かった。大好きな映画の棚にまた一本入れることができた。

冒頭が実に巧い!
韓国人の男女と欧米人の男性がバーで3人並んでいる。
その様子に誰かの噂話の声だけ聞こえてくる。
「あの3人ってどんな関係?」

そう!これって映画を観るっていう行為を端的に表しているシーンだと思う。
きっと1時間半後には、この光景を様々な感情で、ひょっとしたら涙と共に眺めることになるのだろう。物語が進むことで同じ光景も別の意味を持つようになる。

映画は、ある人たちの人生を共になぞる(生きる)ことにより、それらの人生はまるで昔から知る親友たちの人生になっていくのだ。

この手法て昔から名作に採り入れられてきたもの。ファーストシーンがクライマックスの重要な場面になるという、、思い出すのは往年の名作「逢引き」
ファーストシーンとラスト近くが全く同じだが、2人の気持ちに寄り添って観てきた観客には全く違う場面に感じてしまう名匠デヴィッド・リーンの映画のマジック!

ついでに付け加えると、「逢引き」の夫は、
映画史上最も優しい夫のひとりだと思っていたが、本作のアーサーもそれに匹敵するほど優しい夫なんだよねえ〜😢

ソウルの12歳のノラとヘソンは大の仲良しだが、ノラの家族がアメリカに移住するため、突然別れが訪れる。
まだ子どもの2人は住所も伝え合わない。
2人の別れの場面が素晴らしい。2人とも坂道を登っていくのだが、道の造りが微妙に違う。
ヘソンがなだらかで階段のない坂道なのに対して、ノラは一段ずつ険しい階段を登っていく。
2人のこれからの人生に向かう姿勢やこれからの未来が暗示されているようだ。

12年後にSNSで再会する2人。画面上でも懐かしさから話が弾むが、時々回線ご切れてしまう。ここも巧いなあ〰️
韓国とニューヨークとの距離という障壁。
さりげなく描写が効いてくる。

そして、さらにら12年後の再会。ずっとノラを思い続けるものヘソンは初めて自ら行動してニューヨークに彼女に逢いに行く。彼女がアーサーというアメリカ男性と結婚したということも知りながら。

先も書いたが、本作は撮影が実に見事で
デリケートな人物たちの心情を彩っていく。
ニューヨークを2人で回る。とても綺麗な風景なのだが、どことなく寂しい。
ポスターにもなっている回転木馬。時を止められない、戻せないという意味なのか、
華やかなのに、とても切ない。
嬉しいのに、寂し過ぎるデート。

そして、冒頭のバーでの3人。ここも巧いなあ〜3人が横並び。向かい合いじゃないんだ。
ノラを挟んで左右にヘソンとアーサー。
ノラは、アーサーと話す時は英語。
ヘソンと話す時は韓国語。
どちらかと話すともう1人は会話の細部が分からず、じっと待つしかない。
これまでと今が交互に波となって、ノラに打ち寄せる。
何度も言うけど、巧いなあ〜センス良いなあ〜

このあたりから、自然と涙が頬をつたわり、止められなくなってきた。

ノラの気持ち、アーサーの想い、
そして、ああ、最後の本当に最後の時を向かえたヘソン。もう、あかん、自分の細やかな恋愛体験(大部分が振られた)を思い出してしまい、涙が止まらない。

2人の普通の韓国の男女の、普通の恋愛を描いているだけなのに、かくも豊かで、
品があって、センスがあるのか!

今作が監督デビューというセリーヌ・ソンさん、お見事です!!

東洋的な輪廻感、生まれ変わったら、、と
いう考え方も、アメリカでは神秘的に受け止められ高評価につながったのだろうが、
そーゆー死生観が自然に備わっている日本の方にも心にしみる映画になっていると思います。
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