CHICORITA主任

パスト ライブス/再会のCHICORITA主任のレビュー・感想・評価

パスト ライブス/再会(2023年製作の映画)
4.1
韓国から12歳でカナダに移住した少女・ナヨン(ノラ)と、幼馴染で淡い恋心を抱き合っていた少年・ヘソンの、12年ごとに近づいては離れる関係を描いた作品。

監督自身の体験を反映したらしき、自伝的な作品といえる本作。ナヨン=ノラの人生に近づいては良くも悪くも心を乱す存在であるヘソンは、文字通りの初恋の残滓とも取れますが、監督自身の中にある「祖国への郷愁の象徴」とも思えました。

また繰り返し触れられる「イニョン」、すなわち「縁」という考え方。同じアジアの日本人にも馴染み深い概念ですが、輪廻転生など仏教的な考え方にもとづくため、欧米圏からは新鮮にうつるのかもしれません。
本作はまさしく「縁」に関する映画でもあって、良くも悪くもナヨンを翻弄するさまざまな出会いと別れを象徴するものとして、度々会話の中に登場します。
選ばなかった道、有り得たかもしれない人生。それをマルチバース的なSFとして描いたエブエブなんて映画もありましたが、本作は人生の一回性と、それを肯定する前向きさをストレートに描いていて、非常に好感が持てました。

画づくりや撮影も素晴らしく、特に雨にけぶるニューヨークの街並みのシーンが印象的。
役者の演技を信用した、セリフによらないしぐさや表情による演出、そしてそれを際立たせるたっぷり間をとった長回しのシーンもとても良かった。

アカデミー作品賞ノミネートは伊達ではない素晴らしい作品で、監督の長編第1作目とは思えない完成度の高さ。
美しく静謐で、終了後の余韻を味わってもらいたい一本なので、腰を据えて劇場で鑑賞するのがおすすめです。
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